忘れられた巨人 の感想

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参照データ

タイトル忘れられた巨人
発売日販売日未定
製作者カズオ イシグロ
販売元早川書房
JANコード9784152095367
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » 英米文学

購入者の感想

読んでる最中はハラハラしながらすごく引き込まれてあっという間に読み終えたのだけれど、終わってみれば霧の中、結局何が言いたかったんだ?と、呆然、立ち尽くす、そんな読後感。
鬼、霧、赤い髪の女、夢、蝋燭、黒後家、兎、船頭、島、雌竜、戦士、山査子、全てが記号?でも一体何の?
もう、置いてかれ過ぎて、考えてもわからないから、ネット上の色々な方の書評や考察、また、作者ご本人のインタビュー内容で答え合わせ。
結果、全っ然違うこと考えて読んでたわ、自分。何故だろう、冒頭から一つの仮説に囚われ過ぎて、結局、物語終盤までその疑念が拭えなかった。
その仮説というのも、実はこの物語に登場する人物全員、本当は「霧」になんて全然影響されてなくて、皆んな忘れたフリをしてるだけ。都合の悪いことを作為的に忘れ、自分自身も騙してるんじゃないかとか、そんなこと。
だって、皆んな忘れているようで本質的なことは忘れてないように見えたし、「霧」の影響がすごく限定的に思えたから。アクセルも、ベアトリスも、お互い、ずっと何かを隠しているみたいな風に思えたから。息子について語る二人の会話が妙に白々しく思えたから。そして極め付けは、船頭とアクセルとの会話の中で明かされる息子の死が、突然でありながら、静かでさりげな過ぎたから。(でも読み返してみると…”爺さんはおれの足音を聞いて 、夢から覚めたような顔で振り向く 。夕方の光を浴びた顔には 、もう疑り深さはなく 、代わりに深い悲しみがある 。目には小さな涙もある 。”と、ここで思い出したのかなと読みとれますね。)
ていうか、その仮説でいくと、雌竜クエリグのくだりから辻褄合わなくなってくるんだけどね。うむ。ウスウスは矛盾に気づいてはいたんだけどね、ホントは、ね…いやはや、解釈はむつかし。
ポストアーサー王の時代設定プラス、ファンタジー要素により、作者のメッセージが見えにくくて、他の方のレビュー見ても、評価が二分してる。物語にメッセージ性を強く求める人たちには不評みたいだけど、イシグロ氏はアクティビストではなく文学者。敢えてこの設定にする事で、物語に普遍性を持たせようとしたのかな。時代を経ても語り継がれるアーサー王の伝説みたいに。

やはり、賞は政治が絡み社会が軋む問題に直面する欧州が、
移民感情の不安性を昇華した作家を選択した。
訳者が「訳者あとがき」で言いたかったことであろう。
欧米が直面している問題を寓話に落とした現在性の強い普遍的な問題を扱った作品で、
ガラパゴス化している日本人にはお伽噺だ。

カズオの心は母国を忘却するのが怖くて、
脳が本能的に何度も記憶を再生していたのではないだろうか。
だが、本人には何故繰り返し記憶が蘇るかはわからない。
幼少期の記憶が存在理由の根拠と埋め込まれていたのだろうか。
この忘却による存在理由消滅の不安が
幾多の作品を生む原動力になった思う。

2013年4月15日「ボストンマラソン爆弾テロ事件」
は特にカズオを強振したことだろう。
母国をかつて抑圧した事実を取り戻した復讐事件は
同じ移民で敗戦国民の出自を持つカズオには衝撃だっただろう、
予想した通りだと。自分が抱えていた存在の問題は、
破壊という形でも進行し、とんでもない方向に行きかねないのだと。

2017年12日10日更新NHKインタビューでのカズオの発言にて
やっと私には「巨人」の正体をつかめた。曰く(抜粋)、
「・・・あらゆる社会には埋められた巨人がいると思います。私がよく知るすべての社会には、大きな埋められた巨人がいると思います。今アメリカでは、「人種」という埋められた巨人がいると思います。それが国を分断させています。なぜなら、それは埋められたままだからです。・・・
・・・これは日本にとって、多くの暗い記憶や日本が犯した残虐行為を、第2次世界大戦直後に押しのけなかったとしても可能だったでしょうか? 不可能だったかもしれません。日本のようなよい社会をいかにして築けるかは、無理にでも物事を忘れることにかかっているのかもしれません。・・・
確かに日本は多くのことを忘れましたが、日本は自由世界におけるすばらしい自由民主主義国家になることに成功しました。それは無視できない成果だと思います。・・・」

昨年原書を読み不思議な世界に浸ったのですが、結末部分がわかりずらかったので、確認しようと本書を読んでみました。
「なぜ船頭が夫婦の人生を左右するほどの大きな役割を持っているのか。」「ベアトリスが島に渡った後、本当に船頭はアクセルのために戻ってくるのか。」
この二点を確かめたかったのですが、翻訳本でもやはりわからず仕舞い。やはり謎のままです。結局、謎は謎のままにしておこうと開き直ることにしました。これがこの作品なんだ。これがカズオ・イシグロなんだと。
翻訳の土屋氏は、これまでもほとんどのイシグロ作品翻訳を手掛けてきた最大の理解者のひとりです。本書でもその手腕を発揮して、イシグロワールドへ導いてくれました。しかし数か所理解に苦しむ訳も存在します。アクセルの住居の描写に「ベッドに並んで横たわり、屋根に当たる雨の音を聞いていた。」とありますが、はて、ふたりの住まいは丘の斜面に深い横穴を掘って住んでいたはず。屋根はあったのだろうかと原書で確かめると、’listening to the rain beating agaist their shelter. ’とあります。shelter を屋根と誤訳したものと思われます。
さらにガウェイン卿と兵士が決闘を始めようという場面。決闘を思いとどまるよう説得するベアトリスに向かって兵士は言う。「ですがおれはいまはおセンチになっているときじゃないんで。」おセンチ…?今時、こんな言葉使うでしょうか。ちなみに原書ではこう書かれています。’But this is no time for me to soften my heart with such thoughts.’ soften をおセンチと訳して良いものだろうか。ましてや決闘が始まろうというこの時に。翻訳に関して疑問の残るか所でした。
ちなみに原書はそう難しいものではなく、高校レベルの英語力があれば、読むことができます。だたし本来あるべき関係代名詞が欠落している文がそこかしこ点在します。あるインタビューによると、これはイシグロ氏が意識的に書いたとのこと。そうした不思議な英文を探しながら不思議な世界に迷い込むのも、楽しいかもしれません。

 何を書いても面白く読ませてしまう技はさすがで、今回は形式がファンタジーだが違和感はない。昔話ならば「アクセルとベアトリスの竜退治」とでもなろうか。最初の発想がどの時点で生まれたのか知らないが、特にここ数年の世相を映すような現代性が際立っている。異なる神の信者たちの諍いが忘却の川に忘れられた世界と書けば「ウルトラマン・ネクサス」を想起するが、あちらは恐怖がスペース・ビーストの餌になるのでレーテで鎮める。こちらは竜の息がその役を果たすが、その竜を巡り、老若の戦士が対立する。視点のずらし方も素晴らしく、あるエピソードを生かした終わり方もまた深い。もっとも必ずしも比喩を読み足る必要はないだろう。個人的には、これまでの最高傑作が「日の名残り」で、一版好きなのが「充たされざる者」――あの話をつまらないと思う人が多いらしいのはとても残念――と思っているが、カズオ・イシグロのことだから、これからも傑作を物してくれるだろう。最後になったが、いつもながら情景が美しい。短編でも同じだが、特別な表現を使わずに描かれる世界の美しさを堪能させてくれる。

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