ニッポンの海外旅行 若者と観光メディアの50年史 (ちくま新書) の感想
参照データ
タイトル | ニッポンの海外旅行 若者と観光メディアの50年史 (ちくま新書) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 山口 誠 |
販売元 | 筑摩書房 |
JANコード | 9784480065599 |
カテゴリ | ジャンル別 » ノンフィクション » 歴史・地理・旅行記 » 紀行文・旅行記 |
購入者の感想
「何でも見てやろう」から「猿岩石日記」までの海外放浪本に歴史的意義を与えた、日本の旅行とメディアを語る上で画期的な本。海外旅行者の減少という疑問から出発した本書は、ガイドブックと旅行作家を軸に、個人旅行の歴史を旅しながら、日本人が海外をどのように旅し、旅の中で何を考えてきたかを考察する。格安航空券やスケルトン・ツアーなどの方法論に加え、本書では近代において高速化した移動を、旅先に身を浸すために遅く移動する「歩く旅」が個人旅行の精神であったことを、個人旅行向け海外観光ガイド本の記述の変遷から明らかにする。
沢木耕太郎、蔵前仁一、下川裕治など80年代後半から盛り上がってきた日本人の海外放浪文化の考えを「自分探し」「日本人探し」などの言葉で、時代背景を絡めつつ読み解く。96年以降、海外旅行者が減り続けている理由を著者は、格安航空券とスケルトン・ツアーの高度な発展により、「買い・食い」を目的としたアジアやビーチリゾートに数日間滞在の個人旅行=「歩かない旅」が盛んになりすぎために、若者が「買う、食うならどこでも同じ」という海外旅行観を持ち、飽きが生じたからではないか……と見る。
本書刊行の半年前に上梓した「地球の歩き方」の歩き方の取材結果も反映した、海外放浪から「買い・食い」に軸足が向いていったことを検証する観光ガイド分析は鮮やか。「歩く旅」のために開発された旅行手法が「歩かない旅」の隆盛を促し、やがては旅行離れの要因となった、とするストーリーも面白く、ぐいぐい読ませる。本書は個人旅行という新たな社会史を切り開いた。また、新書ながら驚くほど濃密な内容で、様々な研究発展の芽が内包されている。研究を抜きにしても旅行好きや上記の旅行作家の流れをくむ作品を愛読する人も、自分の思い描く「旅」像を再発見することになるだろう。旅を考える人には本書を薦めたい。
沢木耕太郎、蔵前仁一、下川裕治など80年代後半から盛り上がってきた日本人の海外放浪文化の考えを「自分探し」「日本人探し」などの言葉で、時代背景を絡めつつ読み解く。96年以降、海外旅行者が減り続けている理由を著者は、格安航空券とスケルトン・ツアーの高度な発展により、「買い・食い」を目的としたアジアやビーチリゾートに数日間滞在の個人旅行=「歩かない旅」が盛んになりすぎために、若者が「買う、食うならどこでも同じ」という海外旅行観を持ち、飽きが生じたからではないか……と見る。
本書刊行の半年前に上梓した「地球の歩き方」の歩き方の取材結果も反映した、海外放浪から「買い・食い」に軸足が向いていったことを検証する観光ガイド分析は鮮やか。「歩く旅」のために開発された旅行手法が「歩かない旅」の隆盛を促し、やがては旅行離れの要因となった、とするストーリーも面白く、ぐいぐい読ませる。本書は個人旅行という新たな社会史を切り開いた。また、新書ながら驚くほど濃密な内容で、様々な研究発展の芽が内包されている。研究を抜きにしても旅行好きや上記の旅行作家の流れをくむ作品を愛読する人も、自分の思い描く「旅」像を再発見することになるだろう。旅を考える人には本書を薦めたい。