思考の技法　-直観ポンプと７７の思考術- の感想

　共訳者として本書訳出に関わった木島と申します。ガイドラインによると著者・訳者のレビューも販促目的でなければ可とのことで、タイトルからでは分かりにくい本書の簡略な内容紹介と、刊行後に気づいた大きな修正漏れの指摘をさせて頂きます。（星については必須とのことで、僭越ながら原書への率直な感想として5つつけさせて頂きました。）
　タイトルに入っている「直観ポンプ」とは特定の直観的な結論を説得するために組み立てられた、哲学者が得意とする思考実験ないし小咄で、本書は、デネットがこれまで多くの場所で披露した直観ポンプの集成と（この中には「双子地球」の独創的な翻案もあります）、「スワンプマン」「哲学的ゾンビ」「中国語の部屋」「色彩学者メアリー」「凶悪な脳外科医」といった巷間で有名な直観ポンプへの批判を中心的な内容にしています。但し本書は単なるカタログ・百科全書的な本ではなく、これらの直観ポンプを実際に使うことで（あるいは論敵の直観ポンプを徹底的に解体してみせることで）、読み手の直観を揺すぶりながら、意味と心、脳とコンピュータ、進化、意識、自由意志、それに哲学の意味（＝「哲学者であるとはどのようなことか？」）、といった大問題についてのデネットの現在の到達点を読み手に説きふせるという、風変わりなデネット哲学入門ないし〈デネット哲学説得装置〉です。同時にまた、難解な現代（英語圏）哲学の最先端を、直観と直観のぶつかり合いとして体感できる独特の現代哲学入門でもあります。
　以上のように原書は有益で興味深い書物ですが、恐らく最終チェックを引き受けた自分の力不足で、修正漏れがあちこちに見つかりました。意味不明箇所や注番号の抜けなど大きなもの5点の修正リストを、商品説明の延長としてここに掲載することお許し下さい。

p.125　もしあなたに盲人ではないが盲目の友人がいるとすると→もしあなたは盲人ではないが、盲目の友人がいるとすると
p.147原注11　消滅するであろう（第35章を見よ）→消えそうなくらいに微か（第35章を見よ）であろう
p.217 ――実際にとり取めている――　→　――実際には、〔創造するというよりもむしろ〕取り決めている――
p.323 原注4