This Changes Everything: Capitalism vs. the Climate の感想

相変わらずのナオミ・クラインぶしです。資本主義（あるいは新自由主義）の行き着く先を、地球温暖化を代表とする課題に絡めて糾弾するという、いつものナオミ講談の一席です。考証は行き届いているような体裁をとっていますし、論旨は明瞭、かつ激烈ですから、まあ、なかなかのアジ演説と言えます。
私は必ずしも、著者の言うところの細部にまで、全面的には同調しません。私は元職業的物理学研究者で、たまたま、温暖化の機構などについて、またその対策の推進のあり方について、その内情を幾らか詳細に知っているからです。もしかしたら、著者は自然科学の教養、あるいは自然科学的な論理の展開法にはいささか欠けているのかもしれませんね。そのために、引用がずいぶん偏っていて、自分に都合の悪い証拠、論説は無視しているのが透けて見えてしまいます。別の著で、ナオミ自身が信用できないとして排斥している機関の報告を今度は自分の説を立証するために引いてきているところさえもあります。
さて、総合してどのように考えたらいいのでしょう。レビュー、あるいは批評とは難しいものですね。それでも、私はこの著書を高く買うのです。たしかにある程度の傷はありますが、グローバリズム、あるいはその結果としての経済、権力の独占は結局のところ人間社会にカタストロフをもたらす、という主題についての認識には基本的に賛成します。これだけ、丁寧にそれを説きすすめるという作業は並大抵のことではできません。
もっと進んで、経済成長を錦の御旗としている現代一般の思潮について十分に分析をしたうえで、明確に反旗を掲げてくれればとも思いますが、それはないものねだりなのでしょう。
迷いましたがあえて減点なしで評価します。