The Buried Giant の感想

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参照データ

タイトルThe Buried Giant
発売日販売日未定
製作者Kazuo Ishiguro
販売元Faber & Faber Fiction
JANコード9780571315031
カテゴリ » 洋書 » Special Features » all foreign books

購入者の感想

The book was overall good, but left me a bit puzzled especially at what happened to the old couple in the end.

Kazuo Ishiguroの作品を読む至福は何ものにも代え難い。
初期の作品から一貫した彼の作品モチーフ(時代や社会に翻弄された過去を正視しないことで逆にその呪縛から逃れられなくなった人間の葛藤)は今回もしっかりと作品の基軸となっているが、過去の作品では信頼出来ない語り部と指摘されることの多かった一人称による過去の曖昧な供述を、三人称を用いて多くの登場人物に関して同様に曖昧に語らせることで、実は時代や社会がそれを個々人に強要していると気付かされる。しかし、時代や社会は時に過去を正視することも強要し、ここに再び個々人に心の葛藤を強いる。本作では、時代や社会の空気はドラゴンのミストとして表現され、物語もそれを核として展開される。忌わしい過去は忘れるべきなのか、正視すべきなのか。作者はこれまで同様、本作でも、またこれからも、この問いを問い続けるのだろう。
それにしてもIshiguroのプロット設定の変幻自在ぶりには、毎度のことながら感心させられる。最初のページから彼の描く迷宮にに引き摺り込まれ、時にはカフカ的不条理な展開で居心地悪くなりながらも読み続けていかざるをえない。余りにも用意周到で精緻な設定と描写も、彼の作品モチーフ同様に、何ものにも代え難い至福の時を形成してくれる要素である。

本作の舞台はアーサー王没後のブリトン島。そこでは古代の信仰や迷信とキリスト教信仰が並存し、ケルト系のブリトン人とゲルマン系のサクソン人がそれぞれの共同体をつくり暮らしていた。
主人公は、とあるブリトン人の村に住む、AxlとBeatriceという老夫婦。二人はあるときから、自分たちもふくめた村人たちの記憶が欠落していると感じ始めていた。二人は息子の記憶すら思い出せなくなっていた。自分たちが村人たちに冷遇されていると思っていたことも手伝い、二人は村を離れて息子に会いに行くため旅に出る。

イシグロはこれまで「歴史」を背景に描いていたことがあったが、冒険ファンタジーの形式を借りた本作では、そこに「神話」の要素が加わり、世界観が広くなっている。実際、ドラゴン、妖精、オーグなどが登場するし、作中に登場するゲルマン系の戦士はベオウルフをモデルにしているように思う。

世界観が広がった影響からか、本書でイシグロが新しくチャレンジしたのは、「語り手」を物語の「外」に設定したことだ。
今までのイシグロ作品だと一人の作中人物の単一視点から語られてきたが、本書ではおおむね三人称で語られる。一応、一人称の「語り手」 “ I ” は存在するのだが、序盤に数えるほどしか顕在化しないこの「語り手」は、物語の外部において現在の私たちの視点(あるいは、それに近い時点からの視点)から「過去」を語っているように見える。
そのほかにも、章によって幾人かの作中人物が「語り手」 “ I ” を交替してつとめ、物語をより複雑にしている。
 
しかし三人称がメインになったからといって、「客観的」な物語になっているわけではない。
本書のなかの「霧」に包まれた世界では、記憶は霞がかったように判然としない。そこにイシグロお得意の、登場人物による回想が挿入される。たださえ曖昧な記憶が支配するなか、ところどころに登場人物がより過去の事柄を思い起こすというかたちでエピソードが入れられるので、作中の出来事の不確かさが喚起されている。

また、これまでのイシグロ作品でも「記憶」が重要なファクターだったが、本書ではそれが完全に主題になっていると言ってよい。

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