ドキュメント戦艦大和 (文春文庫) の感想
参照データ
タイトル | ドキュメント戦艦大和 (文春文庫) |
発売日 | 2012-09-20 |
製作者 | 吉田 満 |
販売元 | 文藝春秋 |
JANコード | 登録されていません |
カテゴリ | » 本 » ジャンル別 » ノンフィクション |
購入者の感想
本書は、戦艦大和の建艦や性能、或いは単なる海戦記という作品ではない。60名を越える生存者や関係者の証言を集め、戦闘詳報、機密連合艦隊告示、部隊への電信文、作戦計画、米海軍情報部調査記録、米軍部隊の戦闘詳報等々、実に多くの資料を集め纏めた。特に海軍士官から兵に至る各場面での証言は、生々しいばかりに衝撃的であり迫力がある。戦艦大和は空前絶後の巨大な強力な戦艦であり、日本民族の血と汗と技術の結晶であったが、結局は水上特攻として沖縄に向かった。伴なう家来は少なく圧倒的多数の米機に全力を奮って戦い、刀折れ矢尽きて斃れたその最期が日本民族の琴線にふれると言う(巻末解説)。そもそも軍令部作戦課の周囲では、自ら特攻に行くのは無縁の連中から盛んに「一億総特攻」と言い始めた。海軍の航空は特攻に死に急ぎながら、一方で水上部隊、特に大和などは出番もなく生き残っている。皇国存亡の時にこれを使わぬ方があるかと喧しくなってきた。大和が敵に生きたまま捕えられるは堪えられない。大和に最期の死に場所を、帝国海軍の死に花を咲かせてやろうと。いかにも「神さん神がかり」の神重徳先任参謀が言いそうなことだ。天皇からの海上部隊についての御下問に及川軍令部総長が曲解して大和特攻を準備したこともよく言われる。本来の作戦計画では沖縄まで進出なら充分な対空直掩が前提であるはずが、第5航空艦隊では特攻兵力を出すのが精一杯で、大和を守る力を割く余裕がない。戦艦大和及び二水戦の戦訓によると、制空権を持たない艦隊が如何に脆弱であるか、突入までは強力な直掩機が必要であること、特攻隊の美名の下での強引な突入作戦は得るところが少ないこと、整備や訓練も殆ど実施できない出撃は作戦方針と合致せず、水雷戦隊の充実や熟練の配置に難があったこと、成算ある作戦ではなく戦局逼迫の為に焦慮の念に駆られた作戦だったこと、が挙げられる。しかし「Fleet in beingとして自滅の道を辿らんよりは、華々しく戦場に出て断乎死地に突入、敵船団と刺し違えるを本望」とした(宇垣纏司令長官)のは大和の悲劇性が浮き出る。