No Pier Pressure の感想

ここ最近のブライアンの好調さの集大成とでも言えるアルバムです。
まさに質、量ともに、かつて最もその才能が充実していた時期にも勝るとも劣らないほどの作品を創り上げています。

何よりすごいのは、７０歳過ぎにして、全く老成した渋さに陥っていない点でしょう。
メロディもこれぞブライアンという極上のメロディを書いていますが、それに加えてどんな素晴らしいソングライターでも、
この歳に至って、ここまで若さというか挑戦的な作品を作ってくる人を私は他に知りません。
これはマラソンやボクシング選手に近い感覚で、生涯にどれだけ試合に出たかが結構関係しているのでしょうか。
長期リタイアのあったブライアンは、７０歳は過ぎていても、間３０年くらい飛んでタイムスリップして今がある感じがします。

今作の特徴は、ゲスト参加が多い事で、ブライアン・ウィルソン・プロジェクトのようなアルバムになっています。
とはいえ、ビッグネームをゲストが支えているという感覚ではなく、あくまでブライアンが理想のアルバムを作るために、
適材適所にゲストをチョイスし、編み上げた作品という趣向で、かつての「ペットサウンズ」や「スマイル」に近い
コンセプチャルな作品と言えるでしょう。
確かにブライアン復活の初期にはワンダーミンツのメンバーが、まだ病み上がりのブライアンを支えていたという面は
あると思いますが、ここ最近のブライアンの作品から感じるのは、サポートを自在に使う術を完全に掌握してきたなという事です。

メインボーカルを取っていない曲でも、打ち込みで作られた曲でも、全てアルバムの雰囲気作りのために自らやっていることで、
とにかく、僕はあらゆるプレッシャーから解放されてやりたいことをやっていくよという強い姿勢を感じ取れるのです。
「That’s Why God Made the Radio」で復活したビーチボーイズも、またごたごたで空中分解してしまい、以前のブライアンを思うと、
そのことで精神状態が悪くなってしまう気がしますが、今のブライアンは頭をサッと切り替え、この作品を創り上げました。