財政学 改訂版 の感想

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タイトル財政学 改訂版
発売日販売日未定
製作者神野 直彦
販売元有斐閣
JANコード9784641162983
カテゴリジャンル別 » ビジネス・経済 » 経済学・経済事情 » 財政学

購入者の感想

本書の本質に迫るレビューはすでに存在しているので、テキストとしての位置づけについて簡単にレビューします。
大学の経済学部で学ぶ学生は、ミクロ経済学とマクロ経済学を学ぶでしょう。そのなかで、政策とか政府の経済活動に興味がある方は、公共経済学(Public Economics)や財政学(Public Finance)の講義を聞いたり、テキストを読んだりするでしょう。伝統的には貝塚啓明やスティグリッツなどのテキストが良書です。本書は政府の経済としての財政を理解する方法論として、ドイツの財政学(Finanzwissenschaft)に影響を受けています。それゆえ、財政とは何かという哲学的考察や予算論に多くのページをさいています。このような財政学のテキストは日本には他にありません。租税の分類も独特で、それは良し悪しもあるわけですが、知っておいて損がないと思われます。
著者は日本において財政社会学の重要性を説く、著名な財政学者ですが、彼の考える財政社会学はドイツで研究されてきた財政社会学とは似て非なるものです。それは悪い意味ではなく、むしろ日本において財政社会学の研究が進化していることを示しています。近年はアメリカでも財政社会学の発展が見られますが、同じような志向を持ちながら異なる方向へ学問が発展している事実は非常に興味深い事例です。興味のある方はMartinらのNew Fiscal Sociologyを読んで見てください。日本からは井手英策という財政社会学者が執筆に参加しています。なお、もうひとかた著名な財政社会学者として大島通義がいます。予算国家の危機という本が出ておりますので、読み比べてみると面白いですね。

とりあえず、財政の勉強や経済の勉強に役立つと思いますが、実は経済学部以外の学生や、学生ではない方々にも読んで見て欲しい本でもあります。細かい制度の説明は読み飛ばしていいとして、一つの思想書として本書は味わい深いものがあります。

  
 今、学部生が使用する財政学の標準的教科書は、たとえば井堀利宏氏の『財政学(新経済学ライブラリ−7』(新世社)などであろうか―。だとすれば、官界に進む学生の基本的な行政(公共部門)に対する認識は、政府の守備範囲を出来るだけ狭める「小さな政府」論に陥りがちであり、民営化推進論へと傾斜していくであろうことは想像に難くない。日本の政府部門における公的供給には、絶えず「財政再建」という壁が大きく立ち塞がっているからだ。

 本書は、財政を「政府の経済」として矮小化せず、「社会を統合する媒介環」と定位し、財政学を「社会科学の境界線上の学問」と措定しているのが大きな特徴であろうか。従って、そこには日本の財政状況等に対する著者の厳しい眼差しも宿っている訳であるが、特に、公務員を志向する学生等には、是非ともその眼差しを継受してもらいたい。例示すれば、昨今話題となっている「道路特定財源(道路整備特別会計)」の本質的な問題点も同書で理解出来るはずだ。

 ところで、当書との関連で、著者等が世に問うた財政を結節環とする『希望の構想』(岩波書店,06年11月)を「斜め読み」し、マイナスシンボルとして印象されるような「福祉国家」の表象操作を行っている、などとドン・キホーテのごとき粗忽な“批判”をしているブロガーがいる。このブロガーは、さらに言うに事欠いて「憲法25条の視座がない」とか「社会科学的な視角からの新自由主義批判の観点が弱い」等々、当該ブログで悪罵の限りを尽くしている。

 そもそも、神野氏等が説いているのは「福祉国家」の表象ではなく実質なのである。その実質を巡り、新自由主義=「小さな政府」論に対して、神野氏等は、このブロガーが称揚して止まぬ北欧型の、「強い財政(strong finance)」に基づく「強い福祉(strong welfare)」を実行する「ほどよい政府」論を展開し、「持続可能な福祉社会」の道筋とその実現を目指しているのである。議論すべきは福祉国家の内実であり、当然、憲法25条は“黄門様の印籠”では全くない。

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