イスラーム世界の論じ方 の感想

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タイトルイスラーム世界の論じ方
発売日販売日未定
製作者池内 恵
販売元中央公論新社
JANコード9784120039904
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 社会学 » 社会学概論

購入者の感想

イスラム世界に関する議論は英語が圧倒的です。英語での議論はいずれも、現地の実状に対し、検証や批判を前提に為されます。しかし日本での議論は往々にして、反欧米感情の裏返しである護教論に傾斜しがちで、検証や批判に耐えられず、現地の実状と内容が乖離し過ぎる事が多い。しかし日本でだけはそれが事実であるかのように認識されてしまった事柄が数多くあり、本書の内容はそれらを再度客観的に掘り下げて検証したものです。
本書で最も新鮮なのが、欧米のムスリム移民政策を巡る内容です。日本では往々にして「欧米のムスリムへの差別」と一方的に切り捨てられがちですが、実際には多文化主義を掲げるイギリス、共和主義を掲げるフランスという具合に国によって政策が違います。またフランスでは政教分離や信教の自由を前提にしてヴェール問題が起こりましたが、一方で出生率の低下や外婚率の上昇という形でムスリム移民の同化も進行しています。一方でイギリスでは多文化主義が逆にムスリムの分離志向を急進化させ、ロンドニスタンを生み出す結果となっているように、国によってムスリムとの間に生じる問題も様々です。
政教関係を巡る内容も新鮮です。日本ではイスラムの政教一致が当然のような議論が頻繁に聞かれますが、実際にはカリフとウラマーの役割分担は10世紀頃から進行し、またイスラムの政治への位置づけに関して少なくともイデオロギー型とユートピア型の政治思想があるように、政治と宗教の境界面や相互関係も国によって多様かつ複雑です。
このように日本でのイスラム護教論は極めてあやふやな前提の上に成り立っている物が多い。検証や批判にすら耐えられない護教論が「研究」としてまかり通る日本の「イスラム研究」とは一体何なのかとつくづく思いますが、こうした当たり前の姿勢や手順を重視している池内氏の著書は、他のイスラム書籍にない新鮮さがあると思います。

題名通り、「イスラーム世界の論じ方」を解説した書で、5つの論文から成る第一部と、新聞・雑誌への寄稿コラムから成る第二部以降から構成される。正直、いきなり第一部を読みこなすのは困難(分り易く噛み砕いてという体裁ではない)で、概略だけを掴んで、第二部以降の具体例を伴った寄稿コラムを読んでから、第一部に戻るという手順が相応しいと感じた。本書の中心は、第一部の「イスラーム的宗教政治の構造」だと思うが。要は、「寛容」の意味合いが全く異なる「イスラーム世界」に対して、日本人が軽々に(特に日本語という言説空間において)「話せば分る」風に論じる事を戒めた内容である。

「イスラーム世界」は「コーラン」の教えに絶対的に従った政教一致の世界であり、(主に)イスラーム原理主義者が引き起こすテロ(ジハードと信じている)との闘いに対して、武力による解決はあり得ず、価値観による克服しかないと説く。ところが、政教分離を旨として自国内で信教の自由を認める欧米型価値観に「イスラーム世界」の価値観が従う筈はないので、この問題の解決は極めて困難であるとの主張である。身も蓋もない言い方の様だが、欧米型価値観に引きずられて"異文化交流"などを口にする楽観的日本人にとっては痛い指摘である。この点に関し、日本を「「拝外」と「排外」の間」にあると指摘している点も鋭い。また、テロの原因が貧困にあるとの俗説を切り捨て、9.11事件を例に採っても、むしろ「コーラン」(「イスラーム世界」では普遍原理)を信奉した富裕層が事件の背景に居るとの指摘、日本人人質事件を例に採ったマスコミへの提言、「イスラーム世界」を語る上での英語の重要性、「ムハンマド風刺画事件」が双方の価値観の相違を浮き彫りにしているとの指摘など傾聴すべき点が多い。

特に、寄稿コラム中の「中東の「失われた10年」」で、エジプトの民主化運動を予見している点は感心した。まさに、「イスラーム世界」を論ずるための必読の書と言って良いのではないか。

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中央公論新社から発売された池内 恵のイスラーム世界の論じ方(JAN:9784120039904)の感想と評価
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