遊戯の終わり (岩波文庫) の感想

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参照データ

タイトル遊戯の終わり (岩波文庫)
発売日販売日未定
製作者コルタサル
販売元岩波書店
JANコード9784003279021
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » スペイン文学

購入者の感想

表題作の他、全18の掌編(最低3頁)・短編を含む短編集。作者の作品としては「悪魔の涎」、「奪われた家/天国の扉」に続いて本作を読んだが、本作の作風はその二作とはやや異なる。持ち味の幻想味・怪奇味を含んだ作品もあるが、写実的(即物的)な作品もあるという多彩な短編集。初期の短編集なので作風が定まっていないという事由もあるのだろう。

幻想譚・怪奇譚となっているのは主に掌編で、テーマは(心中を含む)自死である。少年時代の自我の強さ(怖さ)を扱った「殺虫剤」という短編もある。執筆当時の作者の関心が自分自身に向かっている事が窺える。勿論、作者の得意な幻想譚・怪奇譚もある。特に、3頁の掌編「続いている公園」、短編「山椒魚」は<メビウスの輪>の様に主体と客体とが混然一体化し、読者を惑わせる。写実的(即物的)な短編も悪くはないと思うが、上述した自死と同様、何故か「死」を扱った短編が多く、私の好みではなかった。そうかと思うと、日常生活や人生における不条理や人間心理の機微を扱った短編もあり、これは中々読ませる。この路線に幻想味・怪奇味を加えて後続の作風を生んだのではないか。

私が先に読んだ二作に比べると物足りないが、作者の原点を知る上では恰好の短編集ではないか。

コルタサルの短編は、他のラテンアメリカのマジックリアリズムの旗手たちとは異なり、極めてヨーロッパ的に洗練されている。19世紀に現れたエドガー=アラン=ポーがあまりに時代に先走りすぎて、全く孤高の存在であったのに良く似ている。彼の描く世界は、至極凡庸な出発点から始まりつつも、ゼンマイ仕掛けの人形のように、行を追う毎に少しずつキリキリと、予想もしない世界へと変容を遂げて行く。しかしその変容にぎこちなさは微塵もなく、あたかも当然の帰結であるかのごとく、自然な流れになるように企まれており、読者は最初と最後のわずかなベージの間に出現する世界の恐るべきクレパスの向こう側の姿に戦慄させられるのである。彼の作品はいわゆる名作長編に典型的な「開かれて行く作品」ではない。むしろ極めて精巧ながら、何か得体のしれぬものの出来を企んでつくられた工芸品であるかのごとく、ねじれた円環構造をつくりながら内側に「閉じてゆく」。しかしそのおそろしく巧妙な細工が呼び起こす悪夢(といっていいのだろう)を発動させるのは、作者や登場人物ではなく、明らかに我々読者自身の読むという営みそのものなのである。

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