言論抑圧 - 矢内原事件の構図 (中公新書) の感想

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タイトル言論抑圧 - 矢内原事件の構図 (中公新書)
発売日販売日未定
製作者将基面 貴巳
販売元中央公論新社
JANコード9784121022844
カテゴリ歴史・地理 » 日本史 » 一般 » 日本史一般

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東京帝大教授・矢内原忠雄が政府批判を理由に帝大を辞職させられた事件を読み直し、本質は学問の自由や学部対立の問題ではなく「言論抑圧の問題」と指摘する。クリスチャンだった矢内原は「正義は国家を超える」「国家の理想を愛する者は、政府の決定が理想に反する場合、異議申し立てするのが『真に愛国的』(p44)」という論文を中央公論に発表した(検閲で削除されるが)。このほかに講演で「日本を葬って下さい」と発言したことなどが文部省や東大経済学部で問題視され、辞職を余儀なくされた。

事件の背景には東大経済学部内の主導権争いがあり、矢内原を嫌っていた学部長・土方成美が教授会で問題視したことがきっかけだった。矢内原の主張を危険視した内務省警保局も文部省に圧力をかけた。だが、著者は彼ら以上に、矢内原攻撃に関わった人たちの多くが読んでいた雑誌を主宰し、「国体」を盲信する狂信的右翼思想家・蓑田胸喜に注目している。蓑田は雑誌上で矢内原を含む当時の「自由主義」「左派」と彼が見なした知識人に「愚劣」「侮日」といった罵詈雑言を浴びせ、文部省などに「対処を迫る」という卑劣な言論を繰り返し、美濃部達吉や津田左右吉など批判対象を次々辞職に追い込んだ。

警保局や右翼議員は矢内原を辞職させたかったが、矢内原発言は犯罪ではなく辞職させる権限はない。長与又郎東大総長や木戸幸一文相は辞職に値しないと感じたが、国家主義の議員や警保局に圧力をかけられ、政局になると判断し辞職させた。背景には蓑田の思想の影響力、帝大経済学部の派閥抗争があった。とはいえ、他の帝大事件と比べ、誰の主導でもなく、流れで辞職を強いられた点に、事件の構図の難しさがある。

著者は巻末で、ネットの普及により今は匿名で発言できるため、誹謗中傷が少なくないと嘆く。「アマゾンにおいて、顧客が書籍や音楽、映画などについて投稿する『レヴュ―』を見れば一目瞭然である(p221)」と。蓑田は実名と顔を出して罵詈雑言をばらまき、戦後自殺した。内容は見るに耐えないとはいえ、蓑田自身は自分の言論に責任を負う覚悟を持っていた。しかし、「ブロガーやアマゾンレビュアー、君らに覚悟はあるか」と。ネットの匿名性は普通の人を、自己規律を持たず罵詈雑言を吐き散らす人間に貶めるのではないか、と危惧している。

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