いま語らねばならない戦前史の真相 の感想

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参照データ

タイトルいま語らねばならない戦前史の真相
発売日販売日未定
製作者孫崎 享
販売元現代書館
JANコード9784768457474
カテゴリ歴史・地理 » 日本史 » 一般 » 日本史一般

購入者の感想

リベラル派の元外交官と、新右翼団体「一水会」顧問との対談という異色の組合せである。昨今の日本の支配層の急激な右傾化で、以前なら対談になりそうにないお二人が、それほど大きな食い違いなく話が弾む、という不思議な現象が生じている。鈴木氏がリベラル派に見紛うほど日本の右翼化が進んでいるということであろう。本書のテーマは、秘密保護法の施行や戦争法案の審議などに危機感を抱いたお二人が、「日本はなぜ失敗したのか」の根本原因を分析し、現代への示唆を導いたものである。評者が理解した本書のポイントは次の通りである。

(1)現代日本の危機的状況の背景には、戦争や敗戦直後の混乱を身近に体験した人達が高齢化し、現役世代は戦争を観念的にしか知らないことがある。かつての戦争では、国民には正しい情報はほとんど伝えられず、積極的あるいは強制的に戦争に加担させられた。一見情報が豊富な現代でも、政治家や国民がそれらの情報をベースに冷静な判断が出来るとは限らず、むしろ「ネット世論」や「マスコミ世論」に煽られて愚かな判断をする可能性も十分ある。
(2)明治維新については、様々な見方がありうるが、開国と攘夷を巡って徹底的に議論し、あるいは血まで流したことがその後の国家戦略を真剣に考える上で大きな意義を持った。日露戦争までは指導層が戊辰戦争の経験者であり、戦争開始には極めて慎重であった。しかし、日露戦争で実際には辛勝したのに、新聞等の煽り「圧勝」が喧伝され、大国意識と驕りがあっという間に軍部から国民にまで浸透してしまった。
(3)第一次世界大戦に参戦したことが、その後の日本の運命を大きく変えた。戦後、大国間の権益争奪戦に参加することで、対外侵略が国家戦略となり、同時に国民の人権を抑圧することが並行して進んでいった。不況や社会格差が国全体の極右化を促進し、テロ事件が相次いだ。
(4)大東亜戦争開始直前の、日本の外交官や軍部の国際情勢分析能力は驚くほど低かった。対中戦争も対米戦争も、相手を侮るか、根拠なき精神論に頼るかで、いずれも敵を十分知らずに戦争を挑むという、無謀かつ愚かな国家判断で国を亡ぼした。日独伊三国同盟の締結により、もはや引き返すことが出来なくなったという意味で、最悪の外交判断だったといえる。

 同じ1943年生まれという以外、生き方も考え方においても共通点はないと思われた、元外務省官僚(外交官)の孫埼さんと新右翼の鈴木さんの対談。読み終えてみれば、2人とも、明治・大正・昭和の敗戦までの日本の来し方を振り返り、その時々と比べて、今の日本の外交、内政ともにあまりのお粗末さ、思慮・叡智・経験のなさを憂え、その行方を真剣に危惧する「憂国の士」であることがひしひしと伝わる対談だった。
 「まえがき」で「新しい事実を提示するつもりはない。歴史という土俵の上で、各々の価値観やものの見方を紹介することが目的」と孫埼さんは書かれているが、その考え方が新鮮で大変興味深い。幕末の攘夷派のテロリズムの評価や明治の薩長体制と今の政党政治との比較、関東軍の暴走をなぜ止められなかったのか、等々。もちろん、お互いに歴史をどう見るかという観念論を展開しているわけではなく、事実(エビデンス)に基づき、当時の国際情勢や人脈など様々な情報を駆使して解釈し直す。その時々の限界や問題点と共に可能性や長所にも言及しながら、今の日本の課題を明らかにする論述は鮮やかだ。「戦前史を知ることは、戦前の過ちを繰り返さないこと」この言葉を肝に銘じたい。
 しかし、難しいことは後回しにして、二人の語りを楽しむだけでも十分に面白い。遠慮なしに戦前の歴史を考え論じ合うのが外務省の元エリート官僚と行動右翼 の大御所なのだから、今までに見たことがない異色の対談だ。この2人の出会いをプロデュースした版元に感謝!

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現代書館から発売された孫崎 享のいま語らねばならない戦前史の真相(JAN:9784768457474)の感想と評価
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