美の呪力 (新潮文庫) の感想

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参照データ

タイトル美の呪力 (新潮文庫)
発売日販売日未定
製作者岡本 太郎
販売元新潮社
JANコード9784101346229
カテゴリ » ジャンル別 » 文学・評論 » エッセー・随筆

購入者の感想

 芸術家・岡本太郎さんの芸術論(芸術エッセイ?)です。大阪万博のモニュメント<太陽の塔>の製作と並行して雑誌「芸術新潮」に連載されていたものが一冊に纏まっています。

 目次は
「1・イヌクシュクの神秘」「2・石がもし口をきいたら」「3・血・暗い神聖」「4・古代の血・現代の血」「5・透明な爆発・怒り」「6・挑戦」「7・仮面の戦慄」「8・聖火」「9・火の祭り」「10・夜−透明な混沌」「11・宇宙を彩る」
 となっています。

 本書はケルト文化から日本の兜、ドイツの古典画家グリューネヴァルト(結構気持ち悪い感じの絵を描く人なのですが、一度見たら忘れられないというか、私も一時期はまりました・・)やアルトドルファー、ピカソやゴッホ、ゴヤ、果ては日本の祭りなど洋の東西や一般的な分類カテゴリを問わず縦横無尽に、人間の造ってきた芸術のもつ<呪力>をテーマに太郎さん一流の美学、芸術論が述べられたものです。表紙は血を思わせるようなビビッドな赤ですが、小テーマとして<血>や<火><怒り>を巡って話が展開したりもします。
 自論が何故そうなるのかという点については、太郎さんはロジカルと言うより極めて直感的で、「こう考えたい」とか「それ以外に考えられない」等言い切りというか断言が多いのが特徴的です。作中で言及のあるフランスの戦う作家アンドレ・マルロー(太郎さんと対談した事がある方)の『ゴヤ論』は私も一応読みましたが、太郎さんはかなりバッサリマルローのゴヤ解釈を斬って捨てています。ゴッホに関しても、いきなり「今日まで私はゴッホを好きだと思ったことは一度もない」「ゴッホの絵が好かれ、もてはやされるということがわたしには理解できない」と来るので、言葉の思い切りの良さにびっくりします。しかしその出鼻パンチに耐えてよく読んでいくと、太郎さんの勉強量と不思議な確信からくる説得力に「そういう捉え方があるのか」と必ず何か目から鱗の様な啓発を受けるのです。
 太郎さんは自分自身の直感に対する深い信頼感のある方で、またそういう自己信頼を著作で読者にも薦めていますが、「世間の評価はこうだから」ということに本当に縛られず、異端的な考えでも恐れることなく公言する態度には相変わらず敬服させられました。

あの独特の存在感でモノマネ芸人のネタにされまくってたのでただの奇人なイメージの強い岡本太郎氏ですが、こうした彼の著作を読むと、彼の知的なバックボーンが強烈に厚いことが一発で分かるし、実に緻密で隙のない文章なのに驚きます。彼に取って芸術というものは美術館に置かれるかどうかなんてことは問題ではなく、古代遺跡の石像であろうが、人間の生死への畏れであるとか喜びであるとかそうしたものがありのままに出ていることが大事なのだ、ということなのです。これは彼が生前至る所で口にしていたことでもありますが。彼の作品にはある種偏執な感じの個性がありますが、そうした偏執的なことがアートとそれを取り巻く文化や宗教などへの目配りになって現われていて、非常に密度の濃い文章になっていると思います。芸術論として素晴らしいと思います。凄い人だなぁ、って思います。

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