シュルレアリスム宣言・溶ける魚 (岩波文庫) の感想

『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』は、すごく面白くスリリングな本だ！
1924年にパリで出版されてから90年近くたった現在でも、世界中の読者の心を揺さぶり、誘惑する力をもちつづけている。

頻繁に引用されるシュルレアリスムの定義（「シュルレアリスム　男性名詞……」）は国語辞典の項目のパロディーであり、
この書物そのものは、宣言のふりをした高度な遊びである。
合理主義の思考・システムからこぼれおちる、偶然あらわれたものを説明するのに、ここまで適した文体があるだろうか。不思議な暗示に満ちた本である。
読者は、それぞれ、自分なりの解読格子をみつけて、ブルトンの文章にたちむかうよう誘われる。そうやって文章と格闘しているうちに、読者の現実の見え方に変化が訪れる。

シュルレアリスム研究の第一人者によって行われたこの翻訳は、見事に、この書物の不思議と誘惑を伝えている。
そして「解説」そのものも、作品のような完成度だ。「シュルレアリスム」とは何かを知りたいひとはまず「解説」を読むことをお勧めする。
また訳注の精度はすばらしく、研究成果としても高く評価されるべきものである。