Beethoven: The String Quartets の感想

ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は特に好きというワケでもなかったのだが、これは名演すぎて1週間もかからず全曲を聴いてしまった。
1stのエルベンが才能に恵まれ滅茶苦茶上手いとは聞いていたが、本当だった。ユルン・ヤーコブ・ティムのチェロも豊かな低音をブンブン響かせていてついつい聴き入ってしまう。2ndのコンラート・ズスケはカール・ズスケの息子だが、いい具合に地味な音色がエルベンと差別化されていてすごく合っている。ヴィオラはディートマル・ハルマンには及ばないものの、標準以上にいい音出している。
過剰に演出過多にならない、ドイツ的様式に忠実な本物のベートーヴェン演奏で、これからベートーヴェンの弦楽四重奏曲に親しんでみようかという初心者にも、これまで多くの演奏を聴き込んできてすべてを知悉している玄人にも、どちらにもお勧めできる、圧倒的かつ究極的な名盤中の名盤。

CDは９枚目までで全曲を網羅しており、１０枚目はボーナス的おまけ。
昔のメンバーによる演奏の一部と、ドイツ語での語りが収録されている。
ドイツ語は何言っているのか全く分からないし、昔の演奏はかなり古い録音でノスタルジーたっぷりである。
しかし、これも意外に聴き入ってしまう。特にディートマル・ハルマンによる、一種別次元のヴィオラの豊かな響きは必聴。語りで中断されてしまうのではあるが……

正直、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲っていうのは退屈で妙ちきりんな曲ばかりだと思っていたが、これを聴いて宗旨が変わった。
それだけ、奏者によっていかようにも変わり得る、音楽的に難しい曲なんだと思う。
それをここまで聴かせる録音なのだから、もうこれは人類の至宝と言っていい。
安すぎて申し訳なくなるレベル。

他演奏との比較をしない評価です。付属のCD-ROMの解説によるとゲバントハウス四重奏団は、世界最古の弦楽四重奏団だそうで、ゲバントハウスによるベートーベン弦楽四重奏曲演奏は、作曲者ベートーベン自身が生きていたころから弦楽四重奏を演奏してきた長い歴史を誇り、深い作品解釈、高度な演奏技術とが合わさって始めてこの名演奏が可能であることが納得させられます。このメンバーによる演奏は、初めて曲を聴く者をもそのことを納得させるものだと思います。かと言って、重々しい演奏ではなく、特に初期作品の演奏は、ハイドンのように明るく、モーツアルトのように音楽自体が歌うような演奏で、仕事をしてるときのBGMや喫茶店の店内などに流すのに最適だと思います。ベートーベンの弦楽四重奏作品は、後期作品が有名であると聞いていましたが私は若い作品番号の演奏の雰囲気が気に入りました。。「楽しみは真剣なものだ」というモットーがゲバントハウスにあるそうですが、それを納得させる真剣で楽しい演奏です。ボーナストラックにある同四重奏団旧メンバーの演奏も素晴らしいですが、そのCD２枚分で買えるこの全集は、本当にお値打ちでしょう。録音は、初期作品が２０００年代初め、後期作品が１９９０年代末に行われたデジタル録音ですが、素直な音作りで長く聴いていても聴き疲れしないものです。解説によると、この録音ポリシーもゲバントハウス（旧シャルプラッテン）の伝統のようで好ましいものです（いかにもハイファイ的に高域、低域を強調した録音は、聴くに耐えません）。ただ、つまらないジャケットデザインが惜しいです。私的には、人生の宝となる演奏ではないかと思います。強くお薦めします。

ベートーヴェンの魂の詩（うた）ー弦楽四重奏曲。
２００３年に録音がおわったゲヴァントハウス四重奏団の１０枚組全集がＣＤ１枚分の価格。あまりの安さにつられて買ったのですが（ＨＭＶで）、これがとんでもない名演奏。

　伝統を満足させ、
　革新を満足させ、

　みずみずしい新鮮さに驚きますが、同時に、盤石の安定感を持ちます。

　わたしは、過去４０年以上にわたって著名な四重奏団の名演奏を聴いてきましたが、他と比較をする気が起きません。
どんな演奏であれ「完璧」というのはありえないはずですが、でも、完璧！と言うほかないような気分。

　リアル、クリアー、豊か、楽しい、充実、明るい。晦渋さとは無縁で、音楽が命を持ち呼吸しているよう。善美そのものを見るような、でも、とても人間味に溢れる、相反するような要素が見事に一体化した名演奏。
　技術も最優秀ですが、冷たさは皆無。しかも録音が抜群に優れていて、実に美しい音です。眼前に奏者が見えるよう。

　あわてて今年の来日演奏家を調べたら、なんと１１月に来日予定とのことー震えました。