遠野物語remix 付・遠野物語 (角川ソフィア文庫) の感想

この角川ソフィア文庫と同時に、
京極氏のremix版のみを掲載した角川文庫版が出ていますが、
柳田國男の原本が併録されているこちらの方が、
原本との比較のしやすさという点で、お買い得だと思います。

それぞれを別個に読み進めることも、
一つひとつの話を比較しながら、読むことも可能ですが、
京極氏のremixに初めて触れる私は、京極氏の書いた順序に従って、
原本と交互に比較をしながら読み進めています。

京極氏のremix版に対しては、
特に原本での挿話の順序を変えていることに批判が集まっていますが、
その是非はともかく、読み進めていて、あまり違和感は感じません。
原本の、選び取られた少ない言葉での語り口と比べ、
京極氏のそれは、現代の小説特有の豊穣な言葉とその区切り方で、
古い遠い世界を描き出して、21世紀への読者に届けようと試みています。
それはそれで読みやすく、いい試みではないかと思います。

現在、学生の参考図書に選ばれることの多い柳田原本ですが、
現実の子どもたちの読書力を考えると、
若い世代には、京極版から入って柳田原本に触れる、という手法が、
柳田國男への入口になる、ひとつのきっかけとして機能するように思います。
そのくらい、柔軟であってもいいのではないでしょうか。

京極氏の語り口は、やや過剰に過ぎるように思われるところもあるので、
また別の作家による、第二・第三のremixにより、
遠野物語の世界が、さらに広く、あるいは深く読み込まれていくことを
楽しみにしたいと思います。