教科書では教えてくれない! ほんとうに使える数学 基礎編 (じっぴコンパクト新書) の感想

著者の本で数学としての内容面で高い評価の本は「新体系・高校（中学）の教科書」でしょう。
人間の心の優しさを描いた絵本「数のモンスターアタック」は絶版でも、著者の本では一番”心”を感じて好きです。
本書は生きた題材による数学の面白さという点でダントツに面白いです。
目次の題も面白いですが、それより10倍面白いと感じた理由は、その題材を得た人生経験が生き生きして楽しいからです。
ボクシングの元世界チャンピョンが経営する団子屋さんが御近所にあるそうで、そこから得たお釣りの約数話。
甲賀市での小学校の出前授業が終わって行った忍者屋敷で得た確率話。
スキー場の急なゲレンデで怖いと思った初心者に対するアドバイスから得た角度の話。
指導している学生からの教員採用試験問題の質問がきっかけで得た採用試験問題の裏技的解法。
違法なギャンブルや薬物がきっかの話題となって新宿警察で話したヤミ金の利息話。
UFOキャッチャーを行っていることから得た座標平面の導入の話。
著者自ら第1回AKBじゃんけん大会での総選挙ベスト１６がじゃんけんベスト１６になる期待値を公式ガイドブックで当てた背景。
などなど、各項目の背景の話が抜群に面白いです。
この本はゼミの学生さんのアイデアがきっかけで執筆と前書きに書かれていて、学生さんの鋭い視点に乾杯！

この本は、大学の授業からマスコミ出演、そして小学生対象の出前授業まで精力的に行う著名な数学者が、数学嫌いの学生や生徒になんとか数学の魅力を伝えたいと考え抜いた、「生きた教材」を集めたものである。

どの「教材」の話も面白いが、全体を通して読むと、数学者が世界をどのようにみているのか、ひとつの「数学的世界像」のようなものが浮かび上がってくる。それを、難しい理屈ではなく、小学生が読んでも分かるように書いてあるところがすごいのだ。

その根底には、学生や生徒を愛する教育者としての情熱がある。とにかく熱いのだ。たとえば秋田県の過疎地の小学校に出前授業に行き、また説明を聞きたかったら呼んでくれと言い残して、翌年、その言葉の通りに再び訪ねるのである。「あの子供たちの成長した姿を見に行こう！」と言って。そして、子供たちのみならず、愛犬にまで算数を教えることを夢見るのだ。

本書は、数学と数学教育に身も心もささげた男が描く、驚くべき数学教育実践の記録である。ぜひ一読を薦めたい。