なぜ時代劇は滅びるのか (新潮新書) の感想

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タイトルなぜ時代劇は滅びるのか (新潮新書)
発売日販売日未定
製作者春日太一
販売元新潮社
JANコード9784106105869
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購入者の感想

自分も表現する仕事についているが、この書が取り上げる問題点は時代劇だけでなく、エンターテイメント業界すべてに共通するものであると感じた。
エンターテイメント産業はいつからか利益の追求が至上命題となり、育てるのに時間もコストもかかる職人的プロが減少する一方、
政治的に巧妙な者、マーケティング、女子受け云々、ヒットの方程式だけにのっとって思考する人々が台頭している。
その結果、世の中に氾濫するのは予定調和かアマチュアに毛がはえたような作品の嵐。
やはり人が本当に楽しめる作品はプロの職人達の理屈を超えたこだわり以外にない。
この本は時代劇だけにとどまらず、文化的民度が下がった現在、表現を生業にする全ての人が自戒の意味でも、読むべき必読書である。

時代劇ドラマ(あるいは時代劇映画)の衰退を嘆く声は、別に著者が初めてでもないし、様々な方面から言われ続けている。(これは著者も繰り返し指摘している)
しかし、よくあるのが「昔の作品は良かった」「今の作品はダメだ」「これじゃ滅びる」でよくよく聞くと、良かった・ダメの判断基準が観客数や視聴率だったり、昔の俳優と今のアイドルだったりと、単に上っ面をなぞって、何故の答えにはなっていないもの。

本書の優れた点は、先ずは理由を掲げて、更にその理由の根拠を挙げている点だ。批評や分析かくあるべしだろう。
次に評価すべきは、多角的であること。全ての関係者の問題点を並べる中で、視聴者の問題にも踏み込んでいること。実は単なるノスタルジーオヤジが「昔はすごかった」(単に年寄りなだけ)を語ることで、若い層が萎えることが顕著なジャンルと云う指摘は本書購読層は真摯に受け止めるべきだろう。
そして、最後に、岸谷五郎とジャニーズ仕事人への繰り返しのダメ出しを除けば、個々の作品への執拗な批判は殆どみられない。これは著者のモラルの表れ。
それと、人物・作品とも極力固有名詞を明らかにして論じているのも、当たり前とはいえ、それをしない著作が多い中で立派。

ところで、ふと思ったこと。時代劇の定義だが、現代からみて「昔」といえる時代(祖父母の時代か)で、現代と明らかに生活様式が異なれば、そこにファンタジーが成立するのではということ。
つまり、「三丁目の夕陽」しかり「華麗なる一族」しかりで、昭和30~40年代を舞台としたドラマって、ある種の時代劇になっているなぁと。
そして、そのもう一つ前の時代-戦中・戦後ドラマ-がキチンと時代も生き方も描けていないことも、時代劇と同じ構図。
そろそろ、ケータイもネットもないそして景気がよくみんな楽しかった昭和50~60年代がファンタジーの舞台になってしまうかも。

子供の頃から青年期の前半頃まで、時代劇は毎日のようにテレビで放映されていた。そして多くの好きな番組があった(ちなみに著者とはほぼ同世代)。そして、青年時代の後半期(90年代末頃)から時代劇がだんだんつまらなくなったと感じていた。きっと年齢にともなって成長し、人生経験を積んだことで、単純な勧善懲悪やワンパターンを楽しめなくなったのだと漠然と考えていた。

しかし、最近になって昔の時代劇がDVD化されたものを観ると、とても面白いのだ。年齢的に昔と異なる部分を楽しんだり、楽しめなくなったりはあるけれど、やはり面白い。なぜだろう? と疑問や不満を感じていたため、この作品をさっそく購入して読んでみた。

まず、著者の時代劇に対する“ 愛情 ”をひしひしと感じた。時代劇がつまらなくなった(滅び去ろうとしている)理由について、演出者、監督、役者(主演・助演)、脚本等のそれぞれの事情をあげているが、それは煎じ詰めれば、
製作側が、
「時代劇は現在進行形のエンターテイメントである!」という大原則を忘れてしまった(または世代交代のため初めから認識していない)ことにより、「観客が不在になってしまったことによる」と、断じている。

時代劇は、単に古い時代を舞台にしたドラマなのではなく、社会的な制約の多い(たとえば、発砲やカーチェイスなど日常的ではないのでドラマとして不自然になってしまい、どうしてもエンタメ面の幅が狭くなってしまう)日本社会において最高のエンターテイメントを提供しうるフォーマットである、という認識のあるなしが分岐点のようだ。そうした視点から見ると、NHKの昨今の大河ドラマなども昔の時代設定をした現代劇 ≠ 時代劇と言えるだろう。著者の言葉を借りると、「大河ドラマは今やコスチューム・キャラクターショーに変質した!」である。そもそも時代劇は現代を投影したものだから、現代劇っぽくなること自体は問題はないとは思うが、エンターテイメント性を換骨奪胎した作品では面白かろうはずがない。それを楽しめる人にとっては、出演者などが重要なのであって、時代劇である必然性はないといえるだろう。

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