幕臣伝説 (歴史新書y 48) の感想

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著者は本書の「むすびにかえて」（234頁）において、「歴史の大きな流れや社会の変動を論じることなく、ひたすら幕府と幕臣たちのさりげない日常を照らし出した本……小さな世界の小さな話を連ねた小さな本」と些か自嘲気味に本書を形容している。確かに「軽い読み物」ではあるが、当該「小さな話」の史実性は別論としても、各トピックは明示された史資料に依拠しており、史料の評価も併せ概ね考察は実証性が高く客観的であると思う。史料原文と現代語訳（著者は「意訳」としている）が併記（または現代語訳のみ掲示）されているので、一般読者でも気後れすることはない。加えてトピックの選択も幕府中枢の事情も含めて、江戸幕府や当時の旗本・御家人の実態などを反映したものなど、なかなか面白い（興味深い）ものを中心としており、「読み物」以上の面白さがある。著者は各トピックについて、史料の評価を交えながら史実性をある程度肯定的に捉える筆致も垣間見えるが、私見でも概ね首肯できるものが多いと考える。この商品ページでは「商品の説明」がなく殆ど内容紹介がないが、コンセプトは前述のように、江戸幕府の旗本・御家人等に纏わる風聞、醜聞、武勇譚、トラブル、御家騒動、「大 奥」事情など、歴史の影に隠れた「小さな話」ながら興味深いトピックで構成される。かかる「小さな話」は全部で２３話が収録されており、主として「旧幕臣」の「大谷木醇堂」（１８３８〜９７年）の記録である『醇堂叢稿』、『徳川実紀』、『女中帳』など多数の記録史料に基づいて、加えて『寛政重修諸家譜』ほかを補助的に参照しつつ実証性を補っている。

構成・内容を全て紹介することはできないので、個人的に興味を惹いたトピックを幾つか取り上げたい。まずは現代にも仄聞する「隣人トラブル」（76頁以下及び89頁以下の２話）である。最初は「板倉修理」に関わるもので、細川越中守と板倉修理が江戸城内（雪隠）での「刃 傷」沙汰にまで発展したもの。右２家が隣家同志で敷地の高低差から、「汚 水」が細川邸から板倉邸に流れ込みその対応を再三苦情を入れたところ、無視していた細川越中守に板倉修理が「癇 癪」を起こした（「刃 傷」沙汰に及んだ）と言う一説である。著者は板倉修理の単なる「乱 心」でなく、両屋敷の位置関係などを綿密に検証しつつ、隣人トラブル説（「遺