苦役列車 (新潮文庫) の感想

アマゾンで購入する

参照データ

タイトル苦役列車 (新潮文庫)
発売日2012-04-19
製作者西村 賢太
販売元新潮社
JANコード9784101312842
カテゴリ文学・評論 » 文芸作品 » 日本文学 » な行の著者

購入者の感想

 今、テレビに出るのは「もってる」人ばかりだ。甲子園の優勝投手で早稲田に進学し、今季日本ハムに入団した斎藤佑樹は自らを「もってる」と言った。名声もあり、素晴らしい仲間もあり、今は、日本中の報道関係者をもっている。な〜んももってないオレは、口をアングリとして見るほかはない。

 テレビではニュースをやっている。直木賞、芥川賞の発表らしい。「道尾秀介」…あ、このまえ情熱大陸に出ていたぞ。才能あり、大ヒット作連発、セレブな友人多数。写真のモデルにもなっていた。こいつももってる奴だなあ。「きことわ」…なになに、慶應義塾大学院生の20代?フランス文学者一家?あ、きれいな人だ。才色兼備じゃねえか。この女性ももってるなあ。

 今や、もってる人でないと世に出ることは難しい。傑出した能力、清潔な外観、温厚な性格、つまり紳士淑女でないとダメなのだ。彼らは瞬く間にもってる者同士でネットワークを築き上げてしまう。今流行の「無縁社会」も、もってる人達による囲い込み運動の結果にすぎない。そして、彼らは決して「もってない」我々は視界に入らない。

 ニュースは続いている。え、もう一人、芥川賞いるのか。ぱっとしない中年男がでてきたぞ。
「今から、風俗行きます。祝ってくれる友だちもいませんし、連絡する人も誰もいません」 ???
なんだ、こいつは?見事なまでに、もってない!!!

 オイラはすぐに本屋に駆け込んだ。お金を使いたくないが仕方ねえ。「ボクに『苦役列車』を売ってください」

 すげえよ、これは。ここまで魂をゆさぶられたのは久しぶりだ。この孤独感。この孤立感。この虚無感。あがいてもあがいても浮かび上がれない息苦しさ、滑稽さ。これは、もたざる者の、もたざる者による、もたざる者のための書だ。

 日雇い先に向かうバスの中から野球場が見える。そう。オイラも何度も見てきた。バスからは決まって野球場が見える。誰もいない野球場が。

あなたの感想と評価

コメント欄

関連商品の価格と中古

苦役列車 (新潮文庫)

アマゾンで購入する
新潮社から発売された西村 賢太の苦役列車 (新潮文庫)(JAN:9784101312842)の感想と評価
2017 - copyright© みんこみゅ - アマゾン商品の感想と評価 all rights reserved.