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東方Another War

ゲッター #87 - 16.01.30 15:10
この小説は、自分のオリジナルキャラクターが登場する作品です。
東方キャラクターは思わぬ方法で登場します。

悪ふざけや、自分の考えや展開についていけなくなった時点で見るのをやめることをお勧めします。

…では、はじめます。

この記事のまとめ

 

 私は誰なのか、それすら分からない。ただそれだけがとても怖い。
  
  

 怖いのはイヤだ。耳を塞ぎ、目を閉じてもそれは容赦なく私を苛む。

  
                         頭がグチャグチャにされて記憶がまるでない。
  
 ワタシハダレ?                       

レスポンス


ゲッター #104 - 16.03.04 01:13
【第弐話】
 夕日に照らされている住宅街の道を私と女子生徒が歩いている。
 女子生徒の名前は松本秋乃(まつもとあきの)。私の幼馴染だったらしい。でも残念ながら私にはその記憶はない。秋乃は困った顔をしていた。
 秋乃は言う。
「記憶喪失なの? 蒼空?」
「うん……」
 そう頷くしかできない。
 暗い空気が私と秋乃の間を漂う。
 そんな時、私はふと秋乃の腕に視線が行く。どうやらブレスレットみたいだが、何かをはめ込むくぼみがある。メダルならピッタリとはまるだろう。
「そのブレスレット」
「ええ、あぁ。これはね」
 途端に秋乃の表情が曇る。
「どうしたの? 秋乃?」
「ううん、これはなんでもないただのブレスレットよ」
 とてもなんでもないようには見えない。何かいわく付きの代物だろうか? 
 その時だった。
 カチリ……
 そんな音がした後、私は異変に気付く。
「なんで、こんなに暗いんだろう」
「え?」
 秋乃は私が見ている風景に驚いていた。
 辺りが急に真夜中のように暗くなっていた。それに周りの住宅は明りが灯っておらず、空はどす黒い。とても不気味な雰囲気に襲われた。
 まるで心臓を触られるようなおぞましい感覚。
 そして、目の前の道に何かが現れてゆっくりとした足取りでこちらに歩いてくる。
 もしかして人だろうか?
 
 __いや、チガウ。
 人は……、人間は……。
 ひたひたと歩いてくるそいつは……。
 
 割れたザクロのような顔をしていた。

「きゃあ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼あああああ嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああ阿ああああああああ嗚呼嗚呼ああああ嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


ゲッター #104 - 16.02.23 01:05
【第壱話】
「ここは……どこ?」
 私の問いに対して、茶髪の女子生徒は急に笑い出す。それに困惑してしまう。そしておかしそうに彼女は言った。
「何いってんのぉ? 蒼空、ここは私達が通う学校じゃないの」
「学校? それに蒼空って……誰??」
 誰だろう。その問いに女子生徒はまた笑う。
「蒼衣蒼空(あおいそら)ってあんたの名前じゃない。長く寝すぎて頭がおかしくなっちゃった?」
 こめかみにひとさし指を当ててけらけらと彼女は言う。
「だれ……それ。私は、」
(あれ……)
 そこで私は違和感を覚えた。

 __あれ? 私、誰だっけ?

 自分の名前が記憶からずり落ちていた。
 本名は? いままでいた場所、生年月日、好きな食べ物……。それらは綺麗に覚えていない。
 言い知れぬ不気味さに吐き気を覚えた。胃の中からすっぱいものが口の中に広がり始めた。
「……ごめん」
 私は女子生徒を押しのけて教室から飛び出して急いで女子トイレへと駆け込んだ。
「はぁ……はぁ……っ!」
 めまいがする。気持ち悪い。
 ずるずると個室の中でようやく気持ちの悪いものを流した私は。震える手を見て、どうしてこうなってしまったのかを思い出そうとする。でも、分からなかった。
 怖い。
 洗面台の鏡に映る自分は見たこともない顔をしていて、疲労の色が現れていた。黒いショートロングで人に好かれそうな顔立ちをしているのが印象的だった。
 どうにか精神を落ち着かせることができてトイレから出る。誰もいない廊下はあまりにも殺風景で、ここには何秒も居たくなかった。帰る場所すらもない私は、教室に戻るとあの女子生徒は心配そうに私に言う。
「蒼空、大丈夫……?」
「うん、ありがとう、ごめんね」
 謝ったら彼女は笑って許してくれた。私の名前を唯一知る彼女なら、私の事を知っているかもしれない。そう思ってたずねてみた。
「ねぇ、おかしなこと聞くけど。私って誰なの?」
「……どうしたの、なんおかしいよ」
 明らかなおかしい者を見る目。
「ふざけているんじゃないの。本当に分からないの、お願い教えてほしい……、でないと怖くてたまらないの……」
 言葉が震えた、目から涙があふれ出た。
「分かったわ。だから泣かないでよ」
 困ったように言う女子生徒。
「あんたは蒼衣蒼空。私と同じ二年生で、家も近くにあるわ」
 やっと自分の名前を知ることができた。そのことに安堵する。それから。
「今はいつなの?」
「今は……」
 女子生徒は制服のポケットからスマートフォンを取り出して、画面をタップして答えた。
「今は【新暦2016年の四月】よ」
「新暦……」
 聞きなれない和暦に、ここがどんな世界なのかがいよいよ分からなくなり頭を抱えたくなった。
「ちょっと大丈夫?」
「うん、ありがとう。」
「帰れる?」
 心配そうに私に言ってくれた。でも、一人は怖かった。そんな私に女子生徒は笑いかけてくれた。
「私と一緒に帰る?」
「うん、ありがとう」
 

 __To be continued


ゲッター #104 - 16.02.21 02:09
【New location――新しい世界】

 ……誰だろう。誰かが呼ぶ声が聞こえてくる。
 深い意識から徐々に覚醒していく。
 そして目を開けると。

「いつまで寝ているの、蒼空(そら)?」
 私は目の前に両手に腰を当てて不満げに頬を膨らませている、ブレザー姿の女の子がいた。髪は肩まで伸ばし茶髪。利発的な表情の可愛らしいのが特徴的だ。
 
 私は首を動かして周りを見た。ここはどこかの学校の教室で、西日が差して茜色に染まる。遠くからはブラスバンド部が練習する音が聞こえてくる。

「ここは……どこ?」

 私の第一声がそれだった。

__To be continued



ゲッター #104 - 16.02.21 01:51
 ……心が壊れた。
 
 心が壊れたら、どうなってしまうと思う? 

 きっとそうなってしまったら、多分俺は……

 別の何かになってしまうだろう。

 目の前が真っ暗になっていく……、身体がどんどんと朽ち果てていくような感覚だ……。
 次第に意識すら感じなくなっていく。

 深く暗い海の中へとダイブしていく俺は……

 俺は……

     俺は……

          _______________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________。


ゲッター #104 - 16.02.19 12:17
【chapter⑭【喪う】
 人間の里の火事は人の手により鎮火した。しかし、機械竜による犠牲者は多く、魔理沙もその中の一人だった。体温を失いつつある彼女の顔は驚くほど穏やかな表情で俺は驚く。
「……なに、湿気た顔してやがんだ……ライズ」
 弱々しそうな声で魔理沙は言う。もう、そんな気力もないくせに。
「……もう、喋るな」
 魔理沙の手を握り、俺は心を冷静に努めようとする。下手したら心が壊れてしまいそうだから……。
「私、どうしてこんなに痛いのかな……胸がさ、穴が空いているみたいでさ。どうしようもなく痛くて、しにそうで……、走馬灯が見えてさ、霊夢とかみんなとの、思い出がさー見えてきて、もうわたし死んじゃうんだって思えてきて……でもなんだか恐くないんだ。どうしてかな……」
 どんどん魔理沙が衰弱していく。それを俺はただ、こうして抱き抱えるように見守るしか出来ない。
 なんて無力なんだ、俺は。力があっても一人の女の子さえ助けてやれない。
「あ、そうか……」
 つらいはずなのに、薄く笑う魔理沙。
「安心できるからだ、多分、ライズが優しいやつだからだ……」
 思いもよらない魔理沙の言葉に俺は目を丸くして驚く。
「どうして、どうしてそんなことを言うんだ?」
 気づけば俺の声は震えていた。胸が苦しくてつらい……。
「だって、……ライズお前は泣いているじゃないか」
 儚く笑む魔理沙に言われてハッとして手で頬を撫でると、熱い液体の感触に驚いた。そんな俺を彼女は、かははと笑った。
「やっぱりライズは優しいやつだ……誰かのために泣けるのは、いい奴の証だぜ……」
「魔理沙……俺は……優しい、」
 
__優しいやつじゃない。

 そういいかけたとき、魔理沙はもう息を引き取っていた。その最期の顔は昼寝するように無邪気なものだった。
「まりさ……? ……くっ……」 
 俺は魔理沙を強く抱き締め、喉が潰れるほど泣いた。

 __続く。


ゲッター #104 - 16.02.16 12:52
【chapter⑬【犠牲】
 人間の里は機械竜、ジェノサイドワイバーンの襲撃により穏やかであった場所は現在、大規模な火災を起こしていた。夜の空は火事の明かりで真昼のように明るい。一方、機械竜の手から逃れた人々は、協力して井戸から水を汲み上げて消火にあたっていた。
 その様子を俺は最後まで見届けたいが、今は里をこんな目にあわせたジェノサイドワイバーンを倒さねばならない。
 このとき俺は、里を焼く機械竜にばかり気をとらわれていて、もう一つの気配に気付いていなかった……。
 
 魔理沙は箒で空を飛びジェノサイドワイバーンへ向かっていく。俺も彼女に続いた。
 俺に気付いた魔理沙は言う。
「ライズ、この戦いが終わったら霊夢とお茶を飲もうぜ」
「いきなりなんだよ」
「さっきは済まなかったぜ、お前を薄情者と言っちまってよ」
 ややばつが悪そうに言う魔理沙に俺は笑う。
「気にするなよ。確かに、人が大勢死んで涙を流さない奴は薄情者と言われても仕方ないかも知れないな」
「だから、そのお詫びに何かうまいもん食わせてやるから覚悟するんだぜ!」
 顔を赤く染めて言う魔理沙に俺は可笑しくて笑う。
 そう。俺は笑っていいんだ。久しぶりに笑った気がして何となく楽しかったから。
 
 あと数メートル近づいた所でジェノサイドワイバーンがこちらに気づいて即座に旋回した。
「こっちだ!」
 俺は機械竜の注意をこちら側に向けさせる。
『ギィィィ……!』
 思惑どうりに奴は俺に向いてくれた。魔理沙に叫ぶ。
「今だ!」
「分かったぜ!」
 魔理沙はミニ八卦炉を奴に向け、そして叫んだ!
「恋符「マスタースパーク」!」
 轟ッ! ミニ八卦炉から山吹色の奔流がジェノサイドワイバーンへと向かう! それは突然の大技に対応出来ずジェノサイドワイバーンは胸を撃ち貫かれ耳障りな断末魔を上げながら、燃え盛る建物へとゆっくりと墜落した。ばっと舞い上がる残骸。両目をチカチカと光の点滅を繰り返したあと機械竜は遂に動かなくなった。
 ジェノサイドワイバーンは機能停止したのだ。
「見たか私のマスタースパークは!」
 胸を張って得意気な魔理沙。確かに彼女の放つあのレーザーはかなりの火力に見えたから、奴の装甲を貫くのは容易なのかもしれない。
「あぁ、やったな魔理沙……」
 安堵したその時だ。魔理沙の背後にシュインと何かが現れた。そのシルエットはドラゴンで、表面は漆黒の水晶を思わせる鋭利な突起部が幾つも生えている。そしてその龍の紅い眼は魔理沙の背中を見て、次の瞬間、彼女の華奢な背中を黒い水晶の腕を伸ばして突き刺す。柔らかな肉を貫き、魔理沙は目を丸くして血を口から吐き出した。俺は反射的に叫んでいた。
「魔理沙ッ!?」
 その次には乗る箒から崩れれるようにして魔理沙は下に落ちていき、人形のように地面を転げ、ピクリとも動かなくなった。見開かれた目は虚空を眺めているだけで、何も起こらない。ただ、地面に広がる魔理沙の血は止まらず、水溜まりを作っていた。

 __続く。


ゲッター #103 - 16.02.15 13:01
【chapter⑫【涙】
 俺と魔理沙が里に到着したとき。目に映った光景は赤い世界だった。
 道には潰されてカスタードクリームのような人間の死体であふれかえっていて、路上は新しい鮮血で彩られていた。その空の上にはジェノサイドワイバーンが里の建物を口から放たれる火炎放射で燃やしていた。
「なんなんだよ……なぁ、なんなんだよこれェ!!!」
 狂った悲鳴を魔理沙は叫ぶ。
 無理もない。ここまで酷い虐殺など彼女には無縁だからだろう。だが、ディザスターに所属していた俺はこの光景は見慣れているが、やはり後味が悪い……。
 正直、やり方が気に入らない。
「人がこんなんにされてライズ! お前はなにも思わないのかよ!」
 魔理沙は金切り声で俺の両肩を掴み掛かり、涙で濡れた目で睨み付ける。
「泣いているのか」
 俺の言葉に魔理沙は目を丸くする。相貌からは止めどなく涙の粒が流れていた。
「当たり前だろ? 悲しいから私は泣いている。お前は涙なんか流さないなんて薄情者だぜ!」
 彼女の言葉に俺は苦笑いする。
「俺は涙はとうに枯れているんだ。だけど、お前の気持ちは痛いほど分かる。……止めるぞアイツをな」
 上空にはジェノサイドワイバーンがまだ飛んでいた。

 続く。


ゲッター #100 - 16.02.12 23:30
【chapter⑪【侵略阻止行動】
 人間の里を目指して上空を高速飛行する黒い機械仕掛けの竜がいた。その名はジェノサイドワイバーン。これはディザスターが建造した侵略用機械竜である。
 ミルフィーユのように重ねられた一万二千枚のハイパーカーボンの装甲板は、ミサイルを受け付けず耐腐食・対アルカリ性の堅牢な鎧である。その口蓋から放たれる火炎放射「メガバーン」の火力はいかなる金属もドロドロに溶かしてしまう。
 それが人間の里へと到達するところで飛行する俺はやっと追いついた。
「しかし、こいつバージョンアップしているからスピードが前よりダンチだぜ」
 新しいブースターでも開発したのかと考えていると。
 ジェノサイドワイバーンの紅いアイカメラが俺を捉えて首をこちらに向けた。それと同時に口がパカッと開いて赤い閃光がフラッシュする。
「やべっ!」
 急いで奴の視界から離れた瞬間に奴のメガバーンが地を薙ぐ!
 シュバ! なぎ払われた大地が赤くめくれ上がりドドドドド! と轟音を起こしながら大爆発を起こす。
「間違いなくこいつを里に入れたらとんでもないことになるな……」
 里での暴れっぷりを想像して怖気が走った。だから入れさせるわけにはいかない!
 俺は翼からジェット機のように空気を噴射しスピードを一気に上げて、ジェノサイドワイバーンに並列する。そして奴の側頭部に腕を構えてスペルカードの名を叫ぶ。
「空符「ブルーストームレーザー」!」
 圧縮空気の砲撃が手のひらから放たれてジェノサイドワイバーンの頭部を激しく揺らす。
「やったか?」
『グウゥウ……?』
 だが、大したダメージはないらしく、さらに奴は加速して俺から距離を広げる結果となってしまう。
 だが舌打ちしている暇はない。一刻も早くこいつを止めなければ!
「誰か! こいつを止めてくれ!」
 その時だ。
 チカッ! 上空から一閃の雷撃がジェノサイドワイバーンを撃つ!
 ドキュン!
『ギイイイイッ!?』
 ジェノサイドワイバーンは大地へと墜落する。俺は飛んできた雷撃の方角へと見ると、空に箒にまたがる黒い衣装を着た魔法使いの少女の霧雨魔理沙がいた。その手にはミニ八卦炉が握られていて、白い煙が吐き出されていた。彼女は確か霊夢をたった一人の友人と言っていた。
「お前、魔理沙か!」
 思わぬ救援に驚く俺。そして魔理沙は「ああ、お前は確かライズとかいう……犬?」
 がくりと頭を下げて叫ぶ。
「違う、俺はドラゴンだ!」
「すまんぜ、あまりにも似てるから。特に顔つきとか」
 あははと笑いながら謝罪の言葉を言う魔理沙。
 だが、漫才を演じている場合ではなかった。俺と魔理沙の言葉を断ち切るは不気味な駆動音。グゴゴゴゴゴ……。
「「!」」
 ハッとなり俺と魔理沙は一斉にジェノサイドワイバーンを見た。奴は沈黙からすでに目覚めていてその両目をチカチカと点滅させて不気味な雰囲気に魔理沙はギョっとした。
「あいつ……まだ死んでねェのかよ」
 唖然とする魔理沙に俺は言う。
「どうやら無駄みたいだな。簡単に言うとあいつは並みの攻撃じゃビクともしないことだ」
「でェ!? どうすりゃいいんだよ!」
「とにかく今のお前の攻撃よりも数倍上の破壊力でぶつかるしかないってことだ!」
「分かったぜ! ……て、ライズ!」
「なんだ……げっ!?」
 慌てる魔理沙が指差す先にはジェノサイドワイバーンが人間の里へと侵入してしまったのだった。

 __続く。



ゲッター #99 - 16.02.11 02:22
【chapter⑩【凄惨】
 大空に浮かぶ機械仕掛けの天使の輪であるゲート、そこから黄昏を思わせる光が地上へと降り注ぎ中から黒い塊がズズズ……と現れる。大きさは遠めで見て約十八メートル、形状は石のつぶてのように不規則な球体。そこまで見て俺はハッとした。
 奴ら、ディザスターはアレを持ってきやがった!
 己の背中に生える翼をバサッと開いて上空へと舞い上がる。眼下には幻想郷の地形が一望できる。そして、黒い塊の真下には、田畑を耕す老夫婦が見えた。
 黒い塊は「変形」を始めた。カキカキカキ……。歯車がかみ合う音を響かせて黒い塊は別の姿を見せ始める。老夫婦はその様子を見上げて不思議そうな顔をしていた。
「チッ! 間に合うか、いや無理か! なら」
 俺は急いでその老夫婦へと急接近する。目を剥いて驚く彼らに叫ぶ。
「急いでここから逃げろ! 殺されるぞ!」
 だが無慈悲にも奴の変形は終わっており、その瞬間には閃光がきらめいて老夫婦は火柱に包まれてその命を灰にされた。
 その光景を見ながら俺は手をギュッと握り締めて心底悔しく思う。
「また、守れなかった……!」
 脳裏に思い出すのはかつての自分が目の前にいた、助けを請う少年の悲しげな青い瞳。彼の目には武装した俺の姿が映っていた。
 周囲は荒廃し、かつての都市だったその姿はもはや無い。建物は破壊され炎が連なり空を赤黒く染めていく。
 戦場と化した都市に響く悲鳴。だがすぐに消えうせる。それが幾度と無く止まらず連鎖していく、まるでそれは地獄そのもの。
 そして、少年は上から降りかかる殺意に踏み潰され、そこには生きた紅き痕が残るだけ。上空には漆黒の機械仕掛けの竜がいた。
『何でだ……くっ』
 俺はそのにじむ紅い痕を腫れ物でも触るように手で触れる。まだ温かいそれはすぐに冷たくなる。
 ここでもう、あの少年は死んだのだということを改めて実感する。彼の死体は横切るディザスターの兵龍に踏み潰されひき肉みたいにされた。
 無残だ……。
 侵略組織ディザスターの悪魔じみた正義による侵略は誰もとめることはできない。
 ディザスターに所属していた俺は、思う。
 組織の腐りきった目的……侵略、略奪、殺戮を断じて許せないと。
 だから、組織の基地の施設を半分以上を壊滅させた……。
 もうあの組織になんて関わりたくない。奴らは悪魔だ
 なのに、何故奴らはこの幻想郷にきやがった!
 黒い塊は巨大な漆黒色の機械仕掛けの竜へと姿を変えていた。あの少年を殺したように老夫婦も殺めた黒い悪魔は彼らの民家も踏み潰し、蹂躙する。
 ジェノサイドワイバーンと呼ばれるディザスターの機動兵器の機械竜は次の狩場を求めるように暴風を起こしながら舞い上がり、そして行き先は人間の里と呼ばれる方角であった。

__続く。


ゲッター #94 - 16.02.10 12:32
【chapter⑨【異物】

 俺は何すればいいのか分からない。初めは組織を滅茶苦茶にして逃げてゲートを繋げてこの世界に来た。
 幻想郷は平和で、俺は居心地が良いし好きだ。
 空は青く雲一つない。だが、俺はその中にある異物を見つけた。
 螺旋状の光る、まるで天使の輪のような物が空にポツンと浮かんでいるのだ。
 それは見覚えがある。
 ゲートだ。
 
 ――このあと惨劇が起こることを、その天使の輪は告げていた。


ゲッター #97 - 16.02.09 23:01
【幕間】
 俺は、霊夢を助けてやれない。俺よりかは魔理沙が適任だろうな。
 龍の俺は、さっと身を引こう。
「ライズ」
 俺を呼ぶ女の子。霊夢は穏やかなまなざしをしていた。
「神社、いつでも来てもいいから。できるだけお賽銭をお願いね」
「がめついなぁ…」
 呆れた魔理沙の声。
 俺はあははと笑う。ふと思った。この少女が笑っていられるのはこの幻想郷が平和だからに違いない。俺がいたところは__

 __地獄だ。

 だから言う。
「霊夢、今幸せか?」
 彼女はきょとんとした顔で、それから意地の悪い笑みを浮かべた。
「ぜんっぜんよ! お賽銭誰もいれたくれないんだから~」
「そうか」
 俺は安心した。この世界は平和。
 だから守らなければならない。
 そうして永遠亭を後にした。

__続く。


ゲッター #96 - 16.02.08 20:19
【chapter⑧】

 治療室から出てきた霊夢はキャスターが付いたベッドに乗せられていて、その姿は体中に包帯でぐるぐる巻きでまるで絵本に出てくるミイラのようである。ただ、頭につけている大きな紅いリボンが霊夢である証拠になっていた。
「なによ」
 霊夢は魔理沙たちを見て、訝しげに言う。
「いや、だって霊夢…そんなかわいそうな姿になって……ぶふっ!」
 あまりのおかしさに吹き出して笑う魔理沙に霊夢は怒った。
「魔理沙! 少しは大丈夫かっての一言があってもいいんじゃないの!?」
 そんなやり取りを見ていたライズは安心した。霊夢はあんな姿だけど、元気そうだったからだ。霊夢はライズに気付く。 
「ライズ……」
「元気そうで何よりだな」
 ライズは霊夢に言う。ずっと心配していたのだ。そのことが分かった霊夢。
「……ええ。永淋のおかげよ。あいつは凄腕の医者で普通なら助からないとかいう状態の私を治してくれたんだから」
「そうか」
 ライズはそう答えた。
「霊夢、神社には帰れそうか?」
 魔理沙は心配する。
「う~ん、この状態じゃ帰ったところで笑われちゃうわ。だから数日は入院する。どうせ結構掛かるらしいし」
 体中の火傷のこと指して苦笑い。
 とりあえずすぐに帰れない霊夢に魔理沙は付いてあげることにしたらしい。 
 ライズは居間へと戻ることにした。多分、ライズじゃなくて魔理沙のほうが適任だと思うから……。

 __続く。


ゲッター #88 - 16.02.04 20:46
【chapter⑦】
 永遠亭の緊急治療室のベッドの上で、霊夢は寝かされていた。彼女のおびただしい全身の火傷を治すため、八意永淋は険しい顔つきで霊夢の火傷の処置を施していく。

 永遠亭の十人以上が入れる広さの居間では、険悪な雰囲気で充満していた。
「霊夢は……一体どうしてあんな酷い状態になってんだ!!」
 魔理沙はここにいる皆に怒りをぶちまけていた。パチュリーとライズはそんな魔理沙を黙ってみているしかない。
 
 あの後、大火傷を負った霊夢をライズは背負い、呆然自失のパチュリーを叱咤し、紅魔館のメイド長である十六夜咲夜の協力を経てどうにかこの永遠亭へとたどり着くことができたのだ。

 霊夢が重傷を負ったという話を聞いた魔理沙は急いでこの永遠亭に飛んできた。そして緊急治療室へと担ぎ込まれる霊夢を見て、表情は絶望に塗り替えられた。
「私じゃない……私は悪くない……」
 パチュリーはうつむいて、呪詛のようにつぶやく。
「……なんだよ、パチュリー。お前がやったのか、霊夢を……!」
 怒りの矛をパチュリーへと向ける魔理沙は彼女の胸倉を掴みあげる。
「ひっ……!」
 体重の軽いパチュリーは魔理沙の目線まで持ち上がる。その手は怒りで震えて、ギュウゥ……とパチュリーの首元を圧迫する。
「……む、きゅ……!、ま…りさぁ……! く、苦しいの……!」
 目に大粒の涙があふれて、ギリギリと首が絞まりはじめる。パチュリーの足がバタバタと宙をかき回す。
「うるせぇ……てめーが、霊夢をあんな目にあわせたんだろ? だったらこんくらい黙って我慢しろよ……!」
 行き場を失った魔理沙の怒りはとうに振り切れて、パチュリーを死に至らしめようとしている。だが。
「いい加減にしろよ!」
 ライズは魔理沙を押さえつける。パチュリーは開放されて畳の上に倒れて、ゲホゲホと咽る。
「なんだよ、お前は」
 魔理沙はライズを睨みつける。そんな彼女にライズは言う。
「霊夢は、お前の何だ?」
 静かに魔理沙に問うライズ。魔理沙は切ない顔で答える。
「たった、一人の友達だ……」
「そうか。霊夢は俺のために戦ってくれたんだ」
「……、霊夢がお前のために?」
 先ほどまでの怒りは収まっていて、普段の状態に戻っている。
「ああ、俺を仲間と認めてくれて本気で戦ってくれた。そんな霊夢に俺はまだ何も言ってやれずに、あいつはベッドの上だ」
「霊夢はな、そんな奴なんだぜ」
 穏やかな笑みでライズに言う。
「そんな奴?」
「ああ、霊夢はいつもはお茶飲んでのほほんとしてて、お気楽だしお金には汚い。だけどな、一つ大事なものを見つけたら、全力でそいつを守る。そんな奴だからな」
 霊夢の一面を知ることができてライズは心の中が暖かくなるような気がした。
 その時だ。
「魔理沙さん、霊夢さんの処置が終わったそうですよ」
 居間のふすまが開いて、鈴仙が入ってくる。

 続く。


ゲッター #92 - 16.02.04 15:08
【お詫び】
ごめんなさい【chapter⑥】でのパチュリーのスペルカードの符名を間違えてました。正しくは日符「ロイヤルフレア」です。


ゲッター #92 - 16.02.04 13:21
【chapter⑥】
 ゴガァンッ! 大図書館に轟音が響き、山のように高い本棚がドミノ倒しに倒れ、本が床にばらまかれる。
 チカッ! 閃光がきらめき、交差しては爆発の華をいくつも咲かせた。
 薄暗い館内をスペルカードの閃光で霊夢とパチュリーの姿を浮かび上がらせた。
 両者が弾幕を撃ち合うこと数分の出来事で、ライズはこの戦いをただただ驚きながら観戦していた。
「はぁッはぁッ!」
 パチュリーは執拗にホーミング性能を持つ霊夢の弾幕をかわしているが、魔法使い特有の体力の無さに舌打ちする。
「どうしたの? もうバテてる?」
 霊夢は数枚のお札を右手に持ちながら、館内の空間を飛んでからその辺にあった高い本棚の上に立ち、眼下に見えるパチュリーを煽る。
「パチュリー様!」
 小悪魔は悲鳴のように叫び、パチュリーに駆けつける。そんな小悪魔に笑うパチュリー。
「大丈夫よ、小悪魔。私はまだ負けてないわ」
 回復系の魔法を体に打ち込み、体力が戻ったパチュリーはさらに手に持つ分厚い本をバサリと開く。その本は魔導書であり、同時に彼女に魔力がみなぎる!
 霊夢は察する。
「来るわね……! ライズはできるだけ離れてッ!」
 ライズはいきなりの霊夢の言葉に対応する前にパチュリーは詠唱を終える。小悪魔は巻き込まれないようにパチュリーの後方に下がる。
「火符「ロイヤルフレア」!!」
 これまでにない灼熱の火炎がパチュリーの手から放たれ、周囲の空気もホコリも巻き込んで燃焼させ、更なる大火球へと成長させる。それは霊夢へと肉薄した!
「ちぃっ! 「夢符「封魔陣」!」
 手に持つ数枚のお札が宙に浮かび、四方に散り、霊夢を守るように青白い壁が作り出される。そこに飛んできたロイヤルフレアがぶち当たる。だが、霊夢の壁はパチュリーのスペルカードを防いでいた。
「やった!」
 ライズは歓喜したが、パチュリーは笑う。
「甘いわ! 好調な私のロイヤルフレアがそんなちんけな壁で防げると思うの?」
 ロイヤルフレアが封魔陣を蒸発させ始め、やがて壁が割れて霊夢に直撃させた!

 霊夢の華奢な体がゴミのように宙に舞い、そしてドシャっと床に落ちた。

「霊夢ッ!」
 ライズは叫び、床に倒れる霊夢に駆け寄って彼女を抱き抱える。
「……おい、霊夢ッ!」
 霊夢は服のあちこちが破れていてまるでぼろ雑巾のようだった。ピクリともしない霊夢にパチュリーは血の気を失う。
「れい……む?」
 ライズの意識が壊れた時計のように止まった……。


ゲッター #91 - 16.02.03 17:27
【chapter⑤】
 大図書館の二枚扉を開き、霊夢とライズは館内に入る。いきなり空間の漂うホコリにライズがせき込む。
「ゲホッゲホッ……! なんじゃここ、換気した方がいいぜ」涙を指で取りながら隣にいる霊夢に言う。
「私もそう思うわ」
 袖で口元を押さえる霊夢はライズの台詞に同意する。扉から入り込む光で浮かぶホコリを金色に反射させていた。
「文句でもあるなら出ていってくれるかしら?」
 小さな声で不満を言う霊夢とライズに言う少女。彼女がパチュリー・ノーレッジであり、紅魔館の頭脳だ。持病の喘息は今日は悪くないらしく続けて言葉を紡ぐ。
「あら、今日はあの白黒の魔法使いは一緒じゃないのね」
 どこか残念そうなパチュリー。
「あんたがパチュリーか? 俺はライズ。あんたを探していたんだ」
 できるだけ友好的に接しようとするが、反対にパチュリーは怪訝な目でライズを射抜く。手に持つハードカバーの分厚い本を震える手で持っていた。
「ドラゴン……! 霊夢、あなたはなんてものを連れてくるのよ! ここを壊す気なの?」
 恐怖に震えるパチュリーは霊夢に言った。
「何で皆ライズを怖がるのか分からないけど、こいつはただ、この幻想郷を知りたがっているの。だからあんたに会いに来たの」
 真摯に言う霊夢だが、パチュリーは、
「知らないわ! ドラゴンなんていう化け物はお断りよ!」

 ーー化け物。

 ライズは悲しくなった。確かに自分自身はドラゴンで、向こうの世界では恐れられた存在だった。人間からはドラゴンを残虐極まりない存在だと思われている。
 だけど違うと思いたい。全てのドラゴンが悪い訳じゃない。
 だが、パチュリーという少女の「化け物」という言葉は、ライズの良心を深くえぐる。痛い。心が痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
 だけど、紅白の少女はそんなライズを救う。
「今の言葉、気に入らないわね」
 静かな言葉だが、確かな怒りが混じった強き言葉。
「ライズがいつあなたに危害を加えたりした? なにも知らない分際で私の仲間を侮辱しないで!!」
 仲間。ライズは久しぶりに聞く言葉に、霊夢の後ろ姿が神々しく見える。
「なら、弾幕勝負しない? 私が勝てばライズに言った暴言を撤回して、私の言うことを聞いてもらうから!」
 霊夢からの挑戦にパチュリーは頷く。
「いいわ。今日は喘息も調子いいから、相手になるわ」

 かくして、霊夢とパチュリーの弾幕勝負が開始されるのであった。


ゲッター #91 - 16.02.03 13:00
【幕間】
「はぁ……」
 ため息はパチュリー・ノーレッジのものだった。彼女は紅魔館のヴワル大図書館で本のページを手繰りながら、時には物思いにふけるようにホコリを含んだ酸素と二酸化炭素を交換している。
 大図書館の司書をしている小悪魔はそんなパチュリーを見て、またあの魔法使いのことでも考えているのだと思った。
「パチュリー様、またあの魔法使いのことでも考えているんですか?」
「むきゅっ!? ここ、小悪魔! 私はあんな下品で本を返さない魔法使いなんて思っていないんだからね!」
 取り乱すパチュリーを見て、小悪魔は分かりやすいと微笑むのだった。


ゲッター #88 - 16.02.02 19:00
【chapter④】
 紅魔館は屋敷の概観に比べて実に広大であった。部屋はそこらかしこにあったり、廊下も五人は並んで歩けるほど。
 紅く塗られた廊下を歩きながらライズは感心した。
「天井も高くて安心だぜ。これほど高いと頭をぶつけずに済むからな」
 ライズの身長は200cmと、かなりの長身であるため、それよりも高い廊下の天井には満足していた。ここに暮らす数匹の妖精メイドらは、博麗の巫女と謎のドラゴンに好奇な視線を送りながらすれ違う。
 並んで廊下を進む一人と一匹の前に、一人のメイドが前から歩いてくる。
 銀髪に紅い眼が特徴で、これまですれ違うメイドとは違い、人間のようだ。
 霊夢とメイドの視線が交差する。
「あら、霊夢。珍しいわねここに来るなんて」
 先に喋ったのはメイドのほうだった。それに知り合いのようだ。ライズはこの女何者だ? と視線で霊夢に言う。
「うん、ちょっとした出来事とかで知り合ったのよ。あいつは十六夜咲夜、ここのお屋敷のメイド長をしているのよ」
「へぇ、あいつそんなにすごいんだな」
「まぁ、尤も私以外の子は役立たずだけどね」
 呆れた風に咲夜は言う。
「で、ここに何の用かしら?」
 咲夜は霊夢の前に歩いてきて、互いに向かい合わせになるように立つ。霊夢はそうねぇ……と思案顔した後、「ここの魔法使いに会いに来たの」と言う。
 咲夜は合点して、「ああ、パチュリー様に会いに来たわけね」
 そうよとうなずく霊夢。咲夜はチラリと彼女の隣のライズを見る。
「これは、もしかしてドラゴン?」その目は猛獣を見るような目をしていて、ややライズは居心地が悪い。ライズは自分の疑いを晴らすように咲夜に言った。
「ああ、俺はドラゴンだ。だけど俺はお前らが思うほど恐ろしいものじゃないぜ」
 咲夜はライズの
「……わかったわ。パチュリー様ならここの廊下をまっすぐ進んだ後、つきあたりを左に行くと大図書館にいるはずよ」
 そういった後咲夜はライズを一瞥してから、霊夢とライズを通り過ぎて廊下の向こうへと消えた。
「行くわよライズ」
「ああ」
 そして、霊夢とライズは咲夜の言うとおりに進み、大図書館へと到着する。


ゲッター #88 - 16.02.02 18:18
感想でもあれば書いてくれると嬉しいです(これからの執筆の意欲にも繋がるので…)
ちなみに画像は去年のフリップサグメちゃんです^^


ゲッター #88 - 16.01.31 07:31
【chapter③】
 霊夢とライズは空を飛んだ後、霧の湖の湖畔に建つ紅魔館へ到着した。
 紅魔館とは、悪魔が住むと言われている屋敷である。そのほか西洋の妖怪も多く、これ以前に【紅霧異変】と呼ばれる出来事がきっかけで、たちまち幻想郷の妖怪人間に知られることになった。
 その最たる特徴として、屋敷の壁が真っ赤に染められているのでこのことから紅魔館と呼ばれているのだ。

「ここが紅魔館か? なるほど真っ赤だな」
 高い屋根を見上げながらライズは感心するように言う。空はやや雲が多くこれから雨でも降りそうである。
「そうよ。しかも領主は吸血鬼なの」
 霊夢はスカートの裾を整えて言う。
「なんだ? とすると館が赤いのは今まで吸ってきた人間の血で塗られているとか?」
 悪い笑みを浮べてライズは言う。
「なわけないでしょ? そしたら血なまぐさくて誰も寄り付かないわ。休日とかは一般に開放したりして人間とか妖怪とか招き入れたりしてるそうだし」
 霊夢からのツッコミに、「ま、それもそうか」とうなずくライズ。
 鋼鉄で閉ざされたコラゾン門の隙間からきれいに整えられた花園とその向こうには立派なお屋敷が見えた。
 そして門には腕を組みながら立つ、長身で中華衣装を着た女性がいた。
 彼女の名前は紅美鈴。ここの屋敷の門番で妖怪でもある。穏やかなで敵意のない性格だが、格闘術の達人である。霊夢に気付いた彼女は言う。
「あら、博麗の巫女の霊夢さん今日はどのような用件で?」
「ええ、ここの魔法使いに会いに来たのよ。主にライズの件でね」
 隣に立つライズに目線で美鈴に伝える。
「わわっ」
 少し顔を青くして驚く美鈴にライズは少し気まずそうな表情になる。
「どうしたのよ美鈴? そんなにこいつが怖いの?」
 鉄のように硬い鱗をぺちぺち手で叩きながら、冗談のような笑みを浮べる。
「いえ、でかい犬だなーって思いまして……」
「む、俺は犬じゃない。ドラゴンだ……」
 呆れたようにライズは言う。美鈴はえ? と一気に青ざめる。
「え……、ドラゴンってまさかあの伝説の……?」
「どうしたのよ美鈴?」
 ただならぬ彼女の反応に霊夢は怪訝な表情になる。
「霊夢さん……、ドラゴンというのはとにかく危ない存在なんです。何でしかもこんな幻想郷にいるのかわからないんですが、もしそのドラゴンと共にこの屋敷に入るというのなら、心苦しいですがとにかくお引取りください」
 ライズは美鈴の言葉の中に「こっちにくんな」という意図を感じてしまい苦い顔をする。
 ――だが。
「なに? 差別するの美鈴」
「え?」
 ライズは霊夢の意外な言葉に目を丸くした。
「例えこいつが危ない存在でも、私は人も妖怪も差別する気はない。博麗の巫女は誰でも平等に見るわ。もしも何かあれば私がライズを何とかしてみせる。それでいい?」
 真剣なまなざしに美鈴は折れた。
「わかりました。あなたの言葉を信じて門を開けます」
 ゴゴゴゴと重い金属音を立てながら門は開かれ、霊夢とライズは敷地へと入る。背後で門の閉じる音を聴きながらライズは「ありがとうな」と言う。
「……え? なんでお礼を言うのよ」
「いや、俺はあんなことを言われたのは初めてで、嬉しいんだ。ドラゴンといえば皆から畏怖の対象として見られているからな」
 ライズは先ほど霊夢の、誰でも平等に差別しないという言葉に感動していたのだ。
「……あなた、笑うと本当に犬みたいね」
 顔を少し赤く染めて霊夢は言う。
「あはは、言うなよ」
 悪い気はしなかった。むしろ彼女の言葉が一種の照れ隠しに思えて、なんだか愛しいと思えたからだ。
 霊夢とライズは両側に整えられた綺麗な花園を見ながら屋敷へと向かう。


ゲッター #87 - 16.01.30 17:18
【chapter②】
 助け出されたそいつは、異形の姿をしていた。まず目を引くのが空のように蒼く澄んだ色の鱗(うろこ)で、等身の低い頭は角が二本あって背中には二つの大きな翼を生やしていた。この幻想郷では見たことのない姿に、博麗霊夢は怪訝な目をそいつに向けた。
「あなた、妖怪?」
 霊夢はそいつに言う。頭をさすりながらそいつは答えた。
「妖怪? ……あぁ、そういうおとぎ話に出てくるようなもんじゃない。俺は龍、あるいはドラゴンだ。それとお前は……」
 割り込むように霊夢は、「お前じゃないわ。私は博麗霊夢」
「ああ、すまない。してだ霊夢。俺を見て恐れないのか?」
 目を丸くしてそいつの言葉に、霊夢は鼻で笑う。
「恐れるも何も私は怖いものなんてないわ。あと、あなたドラゴンって言った?」
 そいつは少し表情を強張らせる。だが、霊夢はあっけらかんと、「知らないわねそういうの」と言った。
「は、? 知らない?」
 少しの間をおいてからそいつは笑う。
「何よ、知らないんだから笑わないでよ! 退治するわよ!?」
 顔を少し赤くしてお払い棒を振り上げる。
「まて」
 そいつは霊夢をさえぎるように腕を出した。少しだけ彼女の髪が風で揺れる。
「それは悪かった。ドラゴンっていうのは種族では龍ともよばれる存在でな。圧倒的な力と知識を兼ね備えた……そういう生き物だ」
「ふーん、つまりあなたは妖怪じゃないってわけね。ドラゴンがどんなものなのか、パチュリーなら詳しく知ってるかも」
「ぱちゅりー?」
「霧の湖の湖畔近くに建っているけったいな赤いお屋敷に住んでるのよ」
「そいつは物知りなのか?」
 ドラゴンに霊夢は言う。
「そうねぇ、物知りよ。何でも紅魔館の頭脳とか偉そうな肩書きつきでね」
 肩をすくめて霊夢の言葉にドラゴンは、「なら案内してくれないか? 俺はここの世界について少し知りたいからな」
「……そういうことなら人間の里の阿求のほうがいいかもしれないけど。まぁいいか。里まで行くのめんどいし」
「それと俺はライズだ」
「名乗るの遅くない?」
 
 こうして少女と龍は紅魔館へと向かうことにした。


ゲッター #87 - 16.01.30 15:50
【chapter①】 

 幻想郷。そこはきっとどこかにあるかもしれない幻の場所。
 
 すみきった青空の見て、紅白が特徴的な巫女服をした少女が、竹箒を手に遠くに見える空を見てつぶやく。
「今日もいい天気ねぇ」
 博麗霊夢は穏やかな顔でそろそろ来るであろう友人を思った。
 だが、友人は来ない。かわりに来たのは人ではなかった。
「……誰?」
 そいつは空から突然現れて、そのまま悲鳴のようなものを上げながら霊夢の目の前で石畳に頭からめり込み、両脚を天に向けているのだ。
 一見すると水身に飛び込む蛙のように見えた。
「助けたほうがいいのかしら?」
 霊夢は思案顔をした後、そいつを助けてあげることにした。

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