赤が強調された映画

小津監督の遺作となった1962年の映画で、
結婚する娘と父の関係をテーマにしたものは、
「晩春」、
「麦秋」とあるが、
何時もなら娘と父親の親子愛の様をさらりと描くところを、
今回は娘の結婚による父親の孤独感を掘り下げる事に的を絞った事によって、
年老いていく男の空しさ悲しさまでもがしみじみと伝わってくる名作になっていると思う。

特には笠智衆演じる父親が、
娘を嫁にやった淋しさに震える背中のシーンと、
涙寸前でみせる顔の表情は圧巻だ。

そして、
ファーストシーンの煙突、
ドラム缶からはじまりポスター等のあらゆる小道具に至るまで、
赤が強調された映画でもある。

時折緑や黄色も出てくるがとにかく赤が多い。

しかしこれは、
赤に特別な意味があるわけでなく、
あくまでカラー映画においての原色を鮮やかさを強調したいがために赤を使ったのであり、
特別の深読みをする必要はないとは思う。

強いて考えるなら家族をつなぐ血の象徴か。

黒澤監督が初めてカラー作品を撮った「どですかでん」程の原色の煌びやかさはないが、
小津作品の中でとにかく派手な色使いをした一番美しいカラー映画であり、
翌年の60歳で亡くなるには惜しい、
生きていれば更に素晴らしい色彩に彩られた映画を作ったと感じさせる作品でもある。