近世キリシタンの生き様
江戸時代の宗教世界における異端的存在、
キリシタンはどのように潜伏しながら生き続けていたのか、
その実態の検証に改めて切り込んだ興味深い本である。
昨今の研究では、
キリシタンが弾圧に耐え必死で信仰を保守してきた、
というのはおおよそ誤解であり、
先祖代々の慣習的な文化として半ば無自覚的に伝承されてきた、
といったような説もある。
だがそうした理解では、
彼らがなぜひたすら「潜伏」しながらキリシタンとして活動してきたのかが不明であり、
そこにはやはり主流の宗教文化とは差別化される(べき)信仰への意志があっただろう、
と著者は述べる。
そして、
そのような規制秩序との衝突を起こし得る危険性をはらんだキリシタンが、
しかしなお江戸時代を生き抜くことができた理由とは何なのか、
それを、
この時代における社会秩序の成り立ちと、
そこにおける宗教的異端の意味を問うことから明らかにしていく。
島原天草一揆の強烈な記憶が喚起されていた頃には、
近世宗教世界の異端とは、
キリシタン=「切支丹」にほかならなかった。
だが、
やがてそうしたイメージの劣化や拡散により、
「切支丹」とは社会秩序を乱しうる怪しげで異端的な存在すべてに対してはられるレッテルのようなものと化していく。
そのような「切支丹」イメージの曖昧化のなか、
異端的な神の信仰者でありながらも、
同時にまじめに働く百姓としても生きていたキリシタンは、
「仁政」を求められた権力からの弾圧を何とかスルーしながら生き抜くことに成功した。
宗教的アイデンティティはやや危なげでも、
生活者としてはまともな人間であればまあ大丈夫、
取り締まって事を荒立てるほうが厄介、
というように対処されていたようである。
本書は、
こうした潜伏キリシタンの生き様の検討から、
近世の宗教と社会の構造を明確にあぶりだし、
さらにはその構造が近代への転換期にどのように持続/断絶したのかも少し示唆してくれる。
特に日本の民衆宗教史に関心のある読者に強くすすめたい。
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