暴露部分は不発だが、犯罪者の自叙伝としての出来は良い

本書は、
自身のギャンブルのためにオーナー会社グループから100億円を引っ張り出し、
現在は塀の中の人となった男の懺悔録との触れ込みだが、
「私の履歴書」を彷彿とさせる文体で綴られた著者の華麗なるサクセスストーリーとギャンブル語りには懺悔の欠片も感じられない。
これは貶し文句ではない。
これこそが本書の魅力なのだから。


逮捕当時も話題になった芸能人との交友部分は確かに実名となっているが、
スキャンダラスな内容ではなく、
そうした期待で買うことは勧めない。
また、
当然と云えば当然だが、
黒い紳士達に関して子細が描かれることもなかった。


そう、
本書はそうした暴露本というよりは、
東大卒でビジネス手腕も優れ富・地位・名声の何れもを若くして確立した貴種が、
如何なる形で全てを失い獄中に至るのかという過程が語られている点にこそ価値がある。

この人は頭がいいんだなぁと分かる妙に醒めた客観的な文体が、
彼をしてズブズブとはまっていくカジノの異常ぶりを浮き立たせる。
あるいは（私個人はそうした読まずとも云えるような感想だけなら本書は買わない方がいいと思うが）浮世離れした金持ちエリートの歪んだ意識だから、
こんなアホな犯罪やっちまったんだなぁという得心を感じるかもしれない。


東大・社長・芸能人との交友・毀誉褒貶・転落と逮捕・・・こう書くと、
実に堀江氏（本書にも登場するし、
帯紹介も書いている。
著者との接点は読んでのお楽しみ！）との共通点は多い。

しかし、
本書から感じられる井川氏は、
むしろ堀江氏とは随分異なる印象。

堀江氏のみならず、
かくも冷静な犯罪者の手による著書は決して多くはない。
常軌を逸した犯罪に真っ当な人間がはまっていくというプロセスは、
なかなか読む機会がなく、
本書の価値は高いと私は思う。