目の前に広大なサバンナが出現し、日本ジャズ界が到達しえなかった地点へとリスナーを誘う

日本のジャズ界を支え続けてきた渡辺貞夫(1933年生)が、
初めてのアフリカ旅行で受けた強烈な印象を、
スピリチュアルな演奏に昇華させた傑作。

タイトルはその名もズバリ「SADAO WATANABE」で、
本人の自信が溢れ出ています。

1972年2月24日、
オーディオ評論家としても有名な菅野沖彦の手により、
IINO HALLにて録音。
狭いスタジオでなく、
コンサート会場を選んだのは、
アフリカのスケール感を表現したかったからでしょうか？
全体に、
一気に演奏しきったような、
ノリにノッたメンバーの熱演が繰り広げられていますが、
特に印象深いのは、
若手に交じって起用された、
高柳昌行（1932年~1991年没）のエレクトリックギター。
フリー・ジャズの世界で名を馳せたミュージシャンですが、
時にサイケデリックなほど強烈なサウンドで、
全体を鼓舞しています。

また、
板橋文夫もエレクトリックピアノを多用しており、
ここには、
Miles DavisのBitches Brew (1969年)やWeather Reportのファースト(1971年)に代表されるエレクトリック・ジャズからの影響も強く感じられます。

しかし、
それでも、
渡辺貞夫の音楽たりえているのは、
彼の精神性が本作に強く反映されているからだと思います。

ダイナミックな２曲目「MTOTO」から、
目の前に広大なサバンナが出現し、
ダイナミズムとポエジーに彩られた楽曲群が、
日本ジャズ界が到達しえなかった地点へとリスナーを誘います。

ラスト「UMEME」の強烈なスイング感も聴きもの。