きちんとした理論の教科書

大学の図書館にあったので読みました．この分野のテキストにしては珍しく，きちんとした理論のテキストです．従来ですと，この分野のテキスト（そもそもテキストなのかも怪しい）は往々にして，怪しげな実験(?)データや個票データを用いた実証の結果を引いてきて，「従来の主流派の理論ではこの現象は説明出来ませんね．でも実は心理学では〜社会学では〜説明出来るのです．ねえ凄いでしょ？」みたいに人の褌で相撲を取ってみたり，「幸福度を測れる説明変数はあります！それはこれとこれとこれです！」と何故か経済変数で幸福度を測ることに固執してみたり，簡単な確率論の問題をバイアスと呼んでみたりと，門外漢からすればso what?の連続で，何をしたいのかがイマイチ，イマサン理解出来ずにいました．

しかしこのテキストは実証や実験の結果を得た所で終わるのではなく，それと整合的な経済学の理論を構築するという明確なモチベーションがあり，従来のテキストとは一線を画しています．タイトルにもある通り，伝統的経済学との統合を目指しています．今までの理論では当たり前だとか，無視されていた所等にきちんとデータを用いて踏み込み，その結果と整合的な理論を再構築するという，行動経済学の本来の意義がこのテキストからは伝わってきました．これは大垣先生が伝統的経済学において，理論でも実証でも多大な業績を残されている先生だからこそ成せる技なのだと感じました．

理論の本といっても難解な数学を用いている訳ではないので，大学院進学を目指している学部生以上の方なら，特に苦労すること無く読めると思います．この分野には興味があるけれど，何だか如何わしいと思っている人に特におすすめです．