地層から過去の津波の姿を明らかにする．

著者は地質学者です．本書によると，津波研究は地震学に基づくものが主流のようです．他方，著者は，地道な地質調査に基づいて，自然現象としての津波を明らかにしようとしています．津波の原因は地震に限らず，火山の噴火に伴う山体崩壊，海底地すべり，さらには隕石の落下など，様々です．

地道な地質調査の結果から，津波浸水域や津波発生頻度（間隔）を推定することにより，今後の津波防災対策に貢献する重要性が繰り返し指摘されています．一方で，地質調査は多くの手間と時間を要するため，調査体制を強化する必要性も指摘されています．津波という面的な自然現象を点的な地質調査によって明らかにするのは，原理的にも限界があるように思われます．

とくに興味深いのは，1611年の慶長地震津波です．本書を読む限り，この地震の震源域は明らかにされていません．第4章を読めばわかるように，釧路沖から千島海溝までを震源域とする連動型巨大地震という仮説もあります．奇しくも，そのちょうど400年後に東北地方太平洋沖地震が発生しました．慶長地震の震源域はどこか．もし，東北地方太平洋沖地震と同一の震源域であるとすれば，千年に一度ではなく，より短い間隔であのような巨大地震と巨大津波が発生するかもしれません．

最後に，巨大津波のような稀に発生する現象の生起間隔について．
今後，現象が生起する度に，生起間隔のデータは確実に蓄積されます．生起間隔のばらつきはどの程度になるのだろうか．データの蓄積とともに，生起間隔の分布が徐々にわかってくるだろうと思います．