まだ知らないのなら
この本は短い章から成る長編小説である。
それぞれの章がじつは独立もしているのでどこから読んでも、
どこでやめても構わないように見える。
1つの章だけで独り立ちするにも関わらず、
長編小説として成り立っている。
しかしながら、
長編小説と章はパズルのピースのように予定調和的な関係ではなく、
形がうにょうにょと変形する。
奇跡的に書物になったといっても言い過ぎではない。
そう、
これが本である。
それを思うだけでため息が出る。
ポストモダンの抱えるおもしろさに、
アイヴァスはまた別のユーモアを投げかけている。


アイヴァスをまだ知らなのなら読んだほうがいい。
こんな作品めったにお目にかかれない。
マルケス以降の文学にこんなものが生まれたという事実に驚愕したし、
マルケスなくしてこの道はなかったのだろうなとも思う。
読みだすと眠れなくなる。
想像が肥大化し、
何かを書かずにはいられなくなるからだ。
この本のおもしろい読み方は、
読みながら書くことである。
これを読んでから、
いまもたびたび読み返すが、
創造の抑圧みたいなものを壊された。
閉じ込められていた生が蛆虫のように湧いてきた。
たまに忘れてしまうが、
この世界や身体は有限である。
輪郭を保ったままこの狂気をいかにコントロールしていくか。
この本にはそんなことも書いてある。


前回の作品を見て、
展開の仕方にある種の単調さを見た読者の方も、
この本には飽きることがないだろう。
予想はことごとく裏切られ、
べつの扉を多様な仕方でこじ開けていくアイヴァスがこの作品で見いだした境地は伊達じゃない。
マルケス、
ベケット、
石牟禮道子とはまた違った作者のスタイルはもはやアイヴァスとしか形容のしようがないまでに高められている。
アイヴァスはこの偉大な作家たちと並記されてもなんら遜色はない。
一度目に読み終わったあと、
レヴィストロースの人類学を夢として、
作品として読めるようになった。
行き詰まりを感じている人にはぜひ読んでいただきたい。
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