何か、生み出せないか？

　本書は（本講、
と言った方が適当か？）、
森博嗣〈教授〉による100章（講）の講義、
という体裁がとられている。
何講か紹介しよう。


　「4/100　歩き始めるまえが、
一番疲れている。
」

歩くほど疲れるのが、
物理的というか肉体的な傾向のはずなのに、
実はこの逆に感じられることが多い。
しかも、
ほとんどのチャレンジにこれは共通している。
やり始めるまえが、
最も道が険しく見えるのだ。


　確かにそうだ、
「やり始めるまえ」は、
嫌だな、
怖いな、
無理だよ、
なんて思っているが、
いざ「やり始める」と、
なんだ、
こんなもんか、
と遅まきながら感じることはある。
ただし私の場合、
「やり始め」ても、
結局、
やっぱ無理、
って感じることのほうが多いのだが。


　「23/100　遂行というのは、
失敗のリカバリィの連続、
その積み重ねである。
」

思うとおりに進むなんてことは、
まずない。
今まで一度もなかったと自信を持って言える。
（中略）人生は妥協の連続だ。
とにかく、
折れて、
譲歩して、
ここまでしなければならないのか、
という思いで、
しぶしぶ成し遂げるものばかりだ。


　ちょっと上手くいかないからといって、
すぐいらいらしたり、
あきらめたり、
呪詛の言葉を吐き出したりしている自分には耳の痛い話だ。
「とにかく」、
「傷だらけの成果であっても」途中で投げ出さず、
「成し遂げる」ための糸口を探る努力が必要なのだろう。


　「65/100　出版界は、
この頃かなり刹那的になってきた。
」

出版も、
テレビも、
映画も、
ゲームも、
少しまえには、
挑戦と呼べるような新しい企画があった。
もちろん、
全部が上手くいったわけではないけれど、
そういった機運から生まれる副産物が、
その後しばらくその業界を支えていたように観察される。


　これは人から聞いた話だが……コロンブスは偶然、
アメリカ大陸を発見し、
セルバンテスは偶然、
近代小説を発見した。
要するに、
「挑戦」する心、
それが大事なのだろう。