そこまで礼賛はできない。

　そこまで手放しで褒めてよい本とは思えないですね。
編者に名を連ねるお三方を中心に、
総勢５０名近い社会学者が寄稿していますが、
中にはずいぶんと酷い日本語を書いてる方もいるし。
生硬で鈍重、
いわゆる「学者的悪文」というやつ。
具体例を挙げてもいいんだけど、
その方に申し訳ないので……。

　学問としての誠実さを求めるゆえに論述が慎重になり、
結果として難解になるのは仕方のないことだけど、
やわらかいことばで書きうることを勿体ぶって晦渋に書くのは一種の虚勢というべきでしょう（それこそ社会学的考察の対象かもしれない）。
もちろん全編がそうだとは申しませんが、
その傾向が皆無とはいえない。

　そのような傾きを帯びるのも、
総じて「いまの（日本の）社会と切り結ぶ」という気迫に乏しいせいでしょう。
「理論社会学とはそういうものだ。
」と仰るのかも知れないが、
それならば『社会学の力』というタイトルは如何なものか。
『社会学　最重要概念・命題７０』でよいのではないか。
少なくとも私には、
「現実」と格闘し、
未来を切り開いていくような「力」は感じられませんでした。

　とはいえ、
「正義論」（政治哲学）などの周辺領域にも目を配りつつ、
基礎の基礎から「液状化」「ハイブリッド・モダン」「グローバル化」といった先端の用語（概念）まで網羅しており、
最新の「事典」として幸便であるのは間違いないので、
評価としては☆４つです。

　だけどやっぱり私としては、
アンソニー・ギデンズの大著『社会学　第五版』（而立書房）を精読するほうが（あっちはもっぱらイギリスの話をしてるってのに）ずっと面白いし、
現実の社会を生きるうえでも役に立つ、
と付け加えざるを得ません。