ゲノムとニューロノーム

　素粒子論がクウォーク論に展開して今や収拾がつかなくなっているように、
ニューロンのコネクトーム、
コネクトミクス、
本書ではそういう呼称は一切使われないもののいわばニューノーム、
ニューロノミクスの探究がそのデータ量に恐怖感、
驚異感を抱かせるまでに膨大なものになりつつある。
ゲノム、
ゲノミクスが明確な高分子、
塩基対を根拠にしてライブラリー化、
マップ化され構築されていくのに対して、
しかし、
ニューロンの接続性に基づくこの分類の根拠はどれだけ明確なのか。

　一本ずつの配線、
一方向の矢印、
双方向の矢印、
それはそんな単純な関係であろうか。
配線の太さや配線どうしの関係、
要するに関係の関係、
そのまた関係、
・・・を考えねばならないのではないか。
或いは、
内分泌の毛細現象や流体としての振舞、
量子効果は、
などと考えれば、
モデリング言語を統一することすらできておらずどういうモデルで記述したらいいのかすら判っていない、
単純配線に還元した場合にすら取り扱えないまでに膨大という限界をそれはそもそも超えている。
それでも判っていくことは勿論あるだろうし、
ニューロンの接続性の構造主義に基づく経験主義と云ってもいいようなこの立場は見通し得る限り続くだろう。

　原子論を追究しようとするフィジックスが不本意にも核物理という構造を根拠にせねばならないように、
コネクトミクスは生身のニューロンを根拠にせざるを得まい。
これはゲノミクスが塩基を素子（アトム）として根拠にするのとは根本的に違うだろう。
要するにモデルはあくまでモデルと割り切っておくことも重要かもしれない。