いたってシンプルな恋物語

発刊当初は「失楽園」という言葉自体が流行語となるほどに話題をさらった作品。
が、
当時（主に男性の）読者を惹きつけた、
大胆な性描写と「不倫」というテーマについては、
今日の視点から見る限りそれほどのインパクトは感じない。

今も昔も常々語られる男女間の問題－恋愛感情が普遍ではなく時とともに劣化するものであること－について、
作者が用意した答えが、
「恋を永遠たらしめるには、
そのピークにおいて命を絶つよりない」というのは、
率直に言って拍子抜け。
恋愛の行く末に「死」を持ってくること自体に異論を唱えるつもりは毛頭ないが、
死へ到達するまでのプロセスにもっと新鮮味が欲しかった。
修善寺にある能舞台のたたずむ旅館など、
舞台選びにはこの作家のセンスが光っているのだが、
それを物語に活かしきれていない。

全編を通して淡々とした構成であり、
至ってシンプルな男と女の恋物語といったところだろうか。