人の愚かさに天を仰ぐ非情な実話

1996年のエベレスト遭難事故に同行していたジャーナリストのジョン･クラカワー氏が翌年に刊行した原作｢空へ｣を映画化したもの。
商業登山が抱えるリスクマネジメント上の限界を事実に忠実かつ克明に描写したセミ･ドキュメンタリーだ。
日本でも夏の北海道大雪山系トムラウシで８名もの遭難者を出した商業登山事故が有名。

最も力量が低いメンバーに行動を合わさざるを得ず、
護送船団方式になる登山ではパーティーの人数が多い方が危険なことは常識だ。
また資金と時間が必要で再トライが困難な山ほど、
体調不良でも無理して登りたがるのが人の性、
しかも顧客の立場を強弁するから質が悪い。
個人登山だが数年前に６名全員が遭難した白馬岳の事故は、
限られたGW休暇に福岡から長野に遠征に来て天候悪化予報を無理された医師達でした。
山は下山まで途中リタイアが許されず、
有事にも仲間を見捨てる事が出来ない過酷なスポーツで、
雪山の高山なら尚更だ。

互いに力量が判っているリスクマネジメントが可能な既知の少数メンバーで臨めば、
登山は想像より遥かに安全なのに、
無謀な商業登山の興隆によって危険視されるのが残念であり、
本作もその一点のみを突く。

本作は予定調和の一切ない、
目を背けたくなる現実だからこそ、
判断を誤らせるに至った過程や人々の言動･行動を注視して欲しい。

命を預ける極地での意思決定すら‘金’が関わると歪んでしまう人間の願望の怖さと愚かさを共有出来る貴重な映画である。