「近代絵画の父」と呼ばれているセザンヌの生涯をたどる

2ページの「若き日のセザンヌの信念は、
〈どう考えるか〉ではなく〈どう感じるか〉にあり、
その姿勢は生涯変わらなかった」という一文は、
本書を通読し、
セザンヌの代表作を眺めている内にまさしく感覚として伝わる印象でした。


銀行家であり資産家の父のお蔭で、
画家にありがちな金銭的な心配をすることなく、
絵画制作に没頭できました。
「絵を売って生活の糧を稼ぐ必要」がないことが、
彼の画風の先進性をもたらし、
常に変化し続けていったことと関連しています。


綺羅星の如く、
代表作が掲載してあるわけですが、
人物を描いても自然や生物を描いても、
後に続く画家たちの目標となったのは感じとれました。
実に魅力的です。
見飽きません。

特に62、
63ページに掲載の「身近な親しい人々を等身大のまま描く」に惹かれました。
セザンヌの素晴らしさの一例でしょう。
勿論「サント＝ヴィクトワール山」をモティーフにした一連の作品群も並べられていました。


66ページの見開きの「大水浴図」は「変形(デフォルマシオン)」の実験のようですが、
それを見事に具現化したものでしょう。
「セザンヌ芸術の集大成」という評も頷けます。


表紙にも使用されている「赤いチョッキの少年」は、
2008年にスイスのチューリヒにあるビュルレ美術館から盗まれましたが、
このレビューを書いている数日前にセルビア国内で見つかりました。
世界的な貴重な美術品ですのでファンの一人として安堵しました。


なお、
筆者の永井 隆則氏は、
京都国立近代美術館主任研究官を経て、
京都工芸繊維大学准教授で、
専門はフランス近代美術です。


本書の構成です。

序章　セザンヌの生きた時代 エクス＝アン＝プロヴァンス、
そしてパリ
１　夢想家の誕生 誕生からエクスの青春時代（１８３９‐１８６０年　０‐２１歳）
２　絵画に夢を託して 野心と落胆（１８６１‐１８７１年　２２‐３２歳）
３　印象主義との出会いと別れ 自然への接近（１８７２‐１８７８年　３３‐３９歳）
４　絵画における真実の追求 感覚の実現へ（１８７９‐１８９５年　４０‐５６歳）
５　前人未踏の境地 「約束の地」へ向けて（１８９６‐１９０６年