ロラン・バルトの標準的入門書

　ロラン・バルトは研究者に恵まれない。
そもそも研究するような対象でもない。
ロラン・バルトの美しい文章を堪能する悦びを共有できない研究者など下司でしかない。
バルトを研究しようとするならば、
その流麗な文章を論じる文学研究であるか、
その数々の文学・芸術・社会批評から批判精神を真似て自ら社会批判に取り組むしかない。
研究者と称しているひとたちは、
取り巻き、
バルト愛がゆえに盲目になった、
「自分のバルト」に固執しようとする特殊なひとびとである。
これがフランスでも日本でも質の低い、
ときに悪質なひとびとであるのだから、
ロラン・バルトも気の毒というものである。
フランスでも日本でも事情は同様だが、
日本の場合、
翻訳の酷さにそれが反映されてしまう。
とても残念なことである。

　本書は、
著者も訳者もロラン・バルト研究者ではない。
きわめて標準的な入門書である。
ほぼ全時期の活動を扱っている。
このとても「ふつう」なテキストがバルトに関してはなかなかない。
「偉大な詐欺師」にして稀代のセンスのもちぬしである文筆家を、
公平に知る。
最も「危険の少ない」入門書です。