人間の影の世界の怖さ

　一度読んだらしばらくは忘れられない短篇の数々です。

読んだ人をある意味、
不安な心の状態のままで放置する物語です。


　でも、
読み出すと次のお話をつい読んでしまう。

　有名な好色物や世間胸算用、
日本永代蔵など経済物とはまたちがう
面白い短篇ばかり厳選された感じでのっています。


　幼児、
動物、
女性、
男性、
幽霊など、
普段は認識しない
存在を忘れている影の部分、
見ないようにしている心の内奥のいたずら、

衝撃的な結末で唐突に終わったり、
教訓めいた結語があったり、

現代にも通じるドラマ、
映画になりそうな展開です。

　人間の欲深さ、
はまりやすさを
描くエピソードも数編あります。


　左右のページに原文、
現代文が比較して読めるように
なっていますので、
私のように古文が苦手な人でも
楽しめます。


　短篇ミステリー傑作集という感じですが、

論理的謎解きという意味ではなく、

広い意味でのミステリーだと思います。


　自分の影の部分と出会う、

自分を知るという意味で読まれたら、

また興味深いかもしれません。


　巻末に文献案内ものっていますが、

「対訳西鶴全集」などでさらに読み進めるのもよいようです。