科学史の森を歩く為の貴重な地図

　科学を理解する為には、
科学史を学ぶ事が絶対に必要である。
科学を学ぶと言ふ事は、
科学上の法則や真理とされる事柄をただ記憶する事ではなく、
それらの事柄が正しいとされた理由を知らなければならないからである。
即ち、
物質は原子で出来て居ると教えられて、
ただ「ハイ、
そうですか。
」と覚える事が科学を学ぶ事なのではなく、
物質が原子から成る事はどの様に証明されたのか？を理解して、
初めて科学を学んだ事に成るからである。
しかし、
科学史を正しく学ぶ事は大変な労苦である。
何故なら、
多くの場合、
科学史における原典を読む事は難しく、
かつ、
学説の発展には紆余曲折が有る為、
専門家以外の人間には、
科学史はアマゾンの密林の様な世界である事、
そして更には、
科学史を語る科学史家の見解には幅が有り、
しばしば、
科学史家の解釈が、
科学史を歪めてしまふ事すら有るからである。
その意味から重要な事は、
科学史上の分水嶺と成った様な重要な文献を自分自身で読む事であるが、
それは、
先ず、
そうした原典を入手する事からして難しく、
容易に出来る事ではなかった。
それが、
今、
インターネットの発達によって驚くほど容易に成りつつある事を、
この本は告げて居る。
そうした意味で、
この本は、
これまで正確な地図が無かった科学史の森を安心して歩ける様に書かれた地図の様な本と呼べる物である。


　本書の著者諏訪邦夫先生は、
日本を代表する高名な麻酔科医であり、
かつ、
早くからコンピューターの利用法について多くの著書を書いて来られた大家であるが、
その著作には、
科学史、
医学史に関はる物が少なくない。
その意味で、
著者は、
日本を代表する科学史研究家の一人でもあると言へる。
著者の説明は、
医学書、
それ以外の分野の本をとを問はず、
平易で分かり易く、
論理的であるが、
それは、
もちろん、
この本も例外ではない。