地をはうような徹底した取材を基に書き著された中国残留孤児の苦闘の生涯

常に公平な立場での取材を基に幾多の名作を書き下ろしてきた山崎豊子が、
1980年代当時まだまだ制限の多い中国に飛び、
まさに「地をはう」ような徹底した取材を基に、
中国残留孤児と、
自分たちの子供を孤児として中国に置いてこざるを得なかった家族の苦闘の生涯を著した名作。


「仁徳」の体現者のような養父に育てられた陸一心。
一方「不徳」の体現者の様な家庭で家畜のようにしか扱われなかった妹。
その対比はあまりに強烈です。
どうして同じ民族でありながら、
これほどまでに「仁徳」と「不徳」の人間が存在するのかと、
深い憤りを感じながら読んだことでしょうか。
「仁徳」には感動の涙、
「不徳」にはやりどころの無い憤り。
本書を~~読んでいると、
全編を通してこの二つの思いの間で、
心は大きく揺れ動きます。


また、
日中戦争後の共産化した中国の闇の部分、
特に文化大革命が、
淡々とした筆致ながらこれでもかと言うほど徹底的に描写されています。
文化大革命が為した悪はあまりに罪深い物があります。
この悪魔の所行は、
ユダヤ人のホロコースト、
ポルポト派の大虐殺と共に世界中の人が心に留めておくべき真実でしょう。


「華麗なる一族」「不毛地帯」「二つの祖国」「白い巨塔」「沈まぬ太陽」などの他の山崎豊子の作品と共にすべての人に読んでもらいたい一遍です。