数学的に明快かつ議論は直観的で、しかも話の進め方がうまい本

Shankarは今まで読んだ量子力学の本の中で最も分かりやすい本です。
量子力学は直観的に理解しづらく、
勉強している過程で自分が何を計算しているのか、
そもそもなぜその計算をしているのか分からなくなることが多いです。
しかしShankarは量子力学が「実験を」理解する道具であることを明確に意識して書かれていて、
議論を展開する前にこれからすることの意義を明らかにしてくれます。
したがってこの本は量子力学の初心者が自習に使うのに最適です。


まず第一章でこの本で使う数学を説明しています。
主にHilbert spaceと線形代数が説明されています。
扱われている内容はこの本で使う必要十分な数学だけが載っていて、
量子力学で使う線形代数の記法も説明されているので必ず読む必要があります。

第二章から500ページまでが量子力学の入門的なコースで扱われる内容で、
500ページ以降はアドバンストな内容です。
通読すれば量子力学の基本的な内容はすべてカバーできます。


予備知識は解析力学と電磁気学くらいしか要求されていないのもこの本の魅力です。
他分野の細かな知識はその都度説明してくれるので自習用のテキストとして使いやすいです。


この本の短所は要求される数学の予備知識が少ないため記述が冗長になっている部分が散見されたり、
そもそも議論すらされていない事項があることです。
例えば群論の知識は持っていない事になっているので角運動量の記述や対称性の議論は十分だとは言えません。
また演習問題もSakuraiなどより少なく、
計算練習が十分にできません。


ちなみに日本では知名度が低いですがアメリカでは標準的なテキストとして使われています。
Sakuraiも良い本ですがこの本ほど量子力学が明快に俯瞰できる本はないでしょう。