たとえ詩人になれなくとも

この本を読んだのは、
数十年も前の若い頃だ。
今は手元にはない。
書店に行けばすぐに手に入るけれど。

だから具体的な文章はもうよく思い出せない。
覚えているのは三つの言葉だ。


「経済的に自立するのはとても大切なことです」（芸術家ぶる前に、
自分で自分を養いなさい）。

「人と比べていい詩が書けたかではなく、
自分の心にたずねていい詩が書けたか問いなさい」（精神的に自立しなさい）。

「あまり自分自身を見つめすぎてはいけません」（自我に固執してはいけない）。


孤独なアルバイト生活をしながら、
話し相手といえば白い大学ノートしかなかった私にとって、
なによりも心を打つ言葉だった。


僕は芸術家にはなれなかった。
強くそれを望んでいたわけでもない。
だが、
人生をどう生きていけばよいのかわからなかった僕にとって、
それらの言葉は大きな指針であり、
励ましとなった。


今私が、
仮にも社会人として自立した生活を送っているのは、
リルケのそういう言葉に触れたからだと思う。


人生に悩んでいる若い人には、
凡百とある処世術めいた本より、
この一冊を手にとって欲しい。
人生の本当の価値がわかるだろう。