数学が好き人はより好きに、そうでない人はそれなりに数学が好きになる本
はっきり言って、
数学は私の不得意課目である。
恐る恐る『数学の言葉で世界を見たら――父から娘に贈る数学』(大栗博司著、
幻冬舎)を読み始めたが、
著者の巧みな語り口に思わず引きずり込まれてしまった。
「数学とは、
英語や日本語では表すことができないくらい正確に、
物事を表現するために作られた言語だ。
だから、
数学がわかると、
これまで言えなかったことが言える、
これまで見えなかったことが見える、
これまで考えたこともなかったことが考えられるようになる」。
短い言葉だが、
数学の魅力が頭の中に沁み込んでくる。
「不確実な情報から判断する」の章の「乳がん検診は受ける意味がないのか」では、
ベイズの定理が主役だ。
「アメリカがん協会は、
乳がんの早期発見のために、
女性は40歳から毎年マンモグラフィー検診を受けることを勧めている。
ところが、
2009年に米国政府の予防医学作業部会が、
『40代の女性には、
定期的な検診を行うことを推奨しない』という勧告を発表して、
話題になった」。
予防医学作業部会は、
ベイズの定理により、
陽性の結果が出ても乳がんに罹っている確率はたった9%で、
偽陽性の確率が90%以上もあるというのだ。
この論争に、
著者はこう判定を下す。
「検診をして陽性だったときの確率は9%。
しかし、
9%だから検査に意味がないとは言い切れない。
もう一度検診をしてまた陽性だったら、
確率は58%になるからだ。
ベイズの定理を使うと、
新しい情報が手に入るごとに、
確率がどのように修正されていくかがわかる。
『経験に学ぶ』ということを、
数学的に表現することができるんだ」。
同じ章の「原発重大事故が再び起こる確率」でも、
ベイズの定理が活躍する。
「日本で原子力発電所が稼働を始めてわずか50年の間に、
炉心が融け落ちるメルトダウンが起きてしまった。
いったん事故が起きたら、
これまで99%の確率で正しいと信じてきた東京電力の主張を見直さなければいけない」。
そこで、
ベイズの定理を使うと、
「事故が起きたことで、
東京電力の主張が正しい確率が99%から3%に激減してしまった。
・・・『信頼を失う』ということを、
ベイズの定理を使って数学の言葉で表現するとこういうことになる」。
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