哲学は世界を変える力を持つか

クイズのような形式で次から次へと繰り出される哲学的難問，悩ましいジレンマ。
それが100個もずらりと並ぶと圧巻である。
あまりにも圧倒されてお腹いっぱいになってしまうので、
何らかの分類がされていればもっとよかったかなと思う。
ほとんどは実際の思考実験をもとにした著者の創作ストーリーである。
よくもこれだけポイントを押さえながら短く面白くできたものだと感心する。
ただ、
この本は読者に課題を投げかけることが主眼であり、
思考実験を考え出した側のことや、
思考実験のもつ意味や価値には触れていない。
思考実験は、
実際にはそれぞれの時代の壁を打ち破ろうともがくなかで生まれたものである。
反論・議論にも揉まれている。
その結果、
成功したものもあれば失敗したものもある。
思考実験のそうした現実における奮戦を知りたい方は『頭の中は最強の実験室: 学問の常識を揺るがした思考実験』を読むとよいだろう。
それにしても、
この本は、
われわれの土台をぐらつかせるような根本的な視点を投げかけるが、
実際に読んだ者の何かを変えることはあるのだろうか。
力の強い者の意見を疑うことなく追従していく風潮が強くなっているこの世の中で、
「ちょっと待てよ」と立ち止まらせる力を持つのだろうか。
この本の影響力を考えることは、
哲学は役に立つのかという古くからある問題を考えることなのだろう。