「すみれ」というタイトルの素晴らしさ

「すみれ」が何を意味するかは、
ここで説明してはこれから読む人に失礼になりそうで、
そうするとどれほどこのタイトルが素晴らしいかを説明できなくて歯痒いです。
読み返してみて、
やはり「すみれ」以外にこの作品にふさわしいタイトルはなく、
「すみれ」というひとことに内包される時間と空間と世界の広がりをあらためて感じています。

両親とその友人「レミちゃん」の密接な関係性や、
全く異なる生き方を歩んできた母とレミちゃんという対照的な二人の女性の内面を、
語り手である中学生の少女の心の動きとともに描き出した作品です。
少女を語り手にすることで、
大人の世界で起きている深刻な問題をやわらかい言葉で表現しつつ、
同時に描かれる少女自身の心のゆらぎや成長を楽しむことができます。
語り手と語られる側が等価で存在する小説です。