進歩史観への警鐘を説く名著！

　西洋近代思想形成に重要な役割を果たした思想家を取り上げ、
解説しながら、
進歩史観への警鐘を説く名著です。
特に私が啓発された箇所はヘーゲルの弁証法をフランスに紹介し、
大きな影響をあたえたアレクサンドル・コジェーヴのヘーゲル弁証法を紹介した箇所です。
コジェーブはヘーゲルの『精神現象学』中の主人と奴隷の関係を弁証法として取り上げます。
主人は奴隷の人格を物のように扱い、
命令・支配することで労働に従事させて満足感を得ようとするが、
奴隷は主人の命令に服従しながらも自己の人格を自己主張する。
奴隷の労働なくしては主人の生活が成り立ち得ないことを訴える。
このような奴隷の主張を理解することによって主人の奴隷に対する扱いは変容し、
主人と奴隷の支配・隷属関係が止揚されていくのだという。
この考えはとても面白く、
参考になりますが、
『法哲学講義』や『歴史哲学講義』にも触れ、
家族・市民社会・近代国家の弁証法も取り上げてほしいところです。
なぜなら、
ヘーゲルの弁証法は欲望の体系としての市民社会の矛盾を近代国家の政策により解決するという思想が含まれているからです。
そして近代国家によって市民社会の矛盾が何ら解決されないということが思想的に説明できればヘーゲルの進歩史観は否定されることになるでしょう。
本書を読みながらこのような不満を感じました。
とは言え、
この書物の内容はどの章も面白く、
啓発されるところ大なるものがあります。
思想に関心ある人にはお薦めの一冊です。