達意の翻訳、深まる謎！

『白痴』は、
ドストエフスキーの小説群の中では最も難解な作品であると実感しました。

翻訳者の望月氏の訳文はとても読みやすく、
達意の名訳であると感心しました。
それにしても「白痴」のムイシュキン公爵の出現がエパンチン将軍家の末娘アグラーヤの精神状態を狂わせ、
ナスターシャ・フィリッポブナの人生を狂わせたことは確かです。
ドストエフスキーがなぜムイシュキン公爵のキャラクターを思いついたのか、
ムイシュキン公爵の登場がイエスの再臨を意味するなら、
このような不幸は起こらなかったことでしょう。
謎と疑問は深まるばかりで物語は完結していないように思われます。
小林秀雄が『白痴』は、
キリスト教が分からない者には理解できない作品であると評価し、
自身の「『白痴』について」論文を断筆したということですが、
ではキリスト教を正しく理解し、
信仰すればこの作品が理解できるかと言われたら、
私はそうは思いません。
この作品を読み解く鍵は登場人物たちの行動と人間関係に関する綿密な精神分析と緻密な読解のみにあると思います。
しばらくは、
この作品に関する日本人研究者の研究を読んでみたいと思います。
難解な文学作品に挑みたい人には必読の文献です。