「浮かない感じ」を手放さず、「異数の世界に降りて行く」のだ
吉本隆明が亡くなった後、
新聞雑誌に数多くの追悼の言葉が溢れたが、
その中で最も心に響く追悼文は、
朝日新聞に掲載された高橋源一郎氏のものだった(この追悼文は、
冒頭に再掲されている)。
また、
加藤典洋氏は、
吉本の思想を世界の思想の中でどう位置付けるかを考え続けているのも見ていた。
この二人は、
吉本の思想から何を受け取ったのか。
高橋は、
戦争中に愛国青年だった吉本が、
「みんなで神社へ必勝祈願に行こう」と誘われたが、
「なにか浮かない感じ」がしたという体験に注目している。
「善いことばっかりいっぱいいるでしょう。
それに対してやっぱり浮かない感じがする時には、
<浮かないよ、
それは>と言うべきであると思います。
ずっとそういうことをぼくは言ってきました。
」(『吉本隆明が語る親鸞』より) この「浮かない感じ」が、
もう一つ別の世界=「異数の世界」へと降りて行かせ、
吉本の思想と言葉が生まれたというのだ。
一方、
加藤は、
吉本が、
思想から「国」を離隔して、
「自己」と「世界」を直結しようとする態度に着目し、
これが吉本の戦争体験から来ているとしている。
また、
吉本の思考の特徴として、
先端に行くことと始源に遡及することとが、
同時並行的に探究される「先端と始源の二方向性」を指摘している。
これらは、
『言語にとって美とは何か』においては、
自己表出と指示表出の対をなし、
『心的現象論』にあっては、
生命体と意識体の異和構造(=原生的疎外)という概念として結実していおり、
『アフリカ的段階について』では、
内在(精神)史であるアフリカ的段階と、
外在(文明)史が同義である史観が見すえられているという。
そして、
この二人の対談では、
高橋が吉本から受け取った「浮かない感じ」(異数の世界)と、
加藤が吉本の思想にみた「先端と始源の二方向性」が見事に噛み合って、
スリリングな展開を見せてくれる。
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