倫理的で、人間的で、道徳的で、社会性もあり、心が洗われる思いがした

この本の宣伝文句に、
『「A Time to Kill」の主人公Jake（弁護士）や、
舞台となったClanton郡を中心にして別の小説を書こうと思っている』、
というJohn Grishamの言葉が載っていた。
彼にとっても「A Time to Kill」は愛着のある作品だ、
ということが察せられる。
それを見たのは今年の８月だったが、
すぐにキンドル版と紙の本を予約した。
何故なら、
この本の出版予定の10月には、
私は南スーダンに滞在しているからだ。
10月22日に、
紙の本が私の日本の実家に送られたという連絡があり、
同時にキンドル版が南スーダンの私のキンドルに、
ページを開けたら、
ひっそりとそして誇らしげに入っていた。


　10月に入るとすぐに、
「A Time to Kill」を19年振りに再読した（これもキンドル版である）、
この本、
「Sycamore Row」にもJake を始め多くのその当時の登場人物が出て来ることが予想されるので、
文中で迷子にならないようにするためである。
当時からお気に入りの一篇だったが、
今度は違った角度からその本を読むことが出来た。


　「A Time to Kill」は、
幼い娘を強姦した無頼漢をその父親が公衆の面前で銃殺し、
その是非を陪審員が審理するという筋書きである。
アメリカでは、
その父親の行為を批難する人は稀だと言う、
むしろ英雄視し、
自分の娘がそうなったらきっと同じことをするだろう、
と特に南部では、
当たり前の感覚なのだそうだ、
ということをこの本から知った。
しかし、
話を複雑にしたのは（即ち、
面白くしたのは）幼い娘の父親が黒人で無頼漢が白人だったことである。


　この本、
「Sycamore Row」（プラタナスの並木）も、
陪審員が大きな役割を占めている。
前作「A Time to Kill」と違って暴力行為は出てこないが、
論点は黒人の婦人と白人達の遺産を巡る話である。
前作の続編か、
と言われれば、
そうでもあるが、
前作を読んでいなくても楽しめる。
或はこれを読んでから前作を読んでみてもよい。


　冒頭から扇情的で大胆であり、
読者を、
「どうして？」、
という自問に落とし込む。
肺がんのために余命幾ばくもない白人・Seth