幻作品の豊穣さ

　井上ひさしが亡くなった折、
その追悼文は圧倒的に戯曲に対してのものであった。
しかし70年代から80年代の彼は第一に小説家である。
読書雑誌ダ・カーポ1982年5月が行った人気投票一位が彼であったことを指摘しておこう。
ちなみに二位椎名誠、
三位開高健。
出せば売れるという状況にあって、
なおかつ様々な事情でオクラ入りとなった作品が多数あった。

　それが今回長編・エッセイを除きすべて読める。
特に第一巻におさめられた「燔祭」「お嬢吉三」「フン先生の初恋」はいずれもその掲載雑誌当該号は国会図書館にも所蔵されていない。
浅草ストリップ小屋での自伝的作品「燔祭」といい、
フン先生のブン身、
泥棒ブンが登場しない「フン先生の初恋」といい、
若き井上が何を目指していたか伺える注目作品だ。

　できればイラストつきにしてほしかったが、
それはないものねだりか。
とにかくほとんど毎巻、
未刊行作品が収録されるようなので、
今後も楽しみ。