the dread beneath civilized society

Ian McEwan の最新作。

Atonement を読んで以来、
その後の作品(　Saturday, On Chesil Beach, Solar, Sweet Tooth など）を読んできたが、
それぞれのテーマは現代的、
文化的かつ知的なもので、
工夫された構成の中にさまざまな人間模様や心のありようが描かれて、
充実感のあるものだった。
本作もまたその期待に十分応えたものとなっている。


イギリス高等法院のFamily Division の判事である Fiona はそのすぐれた知性、
判断力、
行動力などで多くの信頼をえているが、
大学教授の夫との間にある危機をかかえている。
ともに60代にさしかかったところ。
このふたりの愛の行方が一つのテーマ。

そしてもっと緊迫感をもって描かれるのが、
Fiona が担当するひとつの事案である。
Jehova’s Witnesses (エホバの証人）の信者の家庭に育つ17歳の賢く美しい少年が、
白血病で入院中で、
その信仰のために輸血を拒否し、
病院側が正しい治療法を主張して、
法廷にもちこまれた。

病院に少年を訪ねたFiona、
少年の家族やとりまく信者たち、
少年の真の幸福とは、
など興味深く描かれている。

Fiona の判決とその理由を述べる部分は深く感動的だ。
やがて18歳になった少年の、
音楽を愛し、
詩を書き、
Fiona に憧れ、
生と死のはざまに彷徨する魂が痛ましい。