another message

John Grisham の最新作。
今まで A Time to Kill と Sycamore Row を読んで、
人種差別を掘り起し訴えて感動しつつ楽しめる本だったが、
今回の作品はまた違ったメッセージを伝えて読み応えがあった。

２００８年、
リーマンショック直後のアメリカ。
Samantha はウォール街の巨大な会社組織の法律事務所に就職して３年で、
furlough (一時的解雇）となり、
ヴァージニア州のアパラチア山脈の麓の小さな町 Brady のNPOの貧困者のための無料法律事務所に赴く。
無給のインターンという身分で。
勤め上げれば１年後には会社に復帰できるという希望のもとに。

マンハッタンを自分の居場所と思い、
恋しく思いつつ、
まるで異次元の（「DC .からはわずか３００マイルだが１世紀も昔のような」）コミュニティーで様々な問題に遭遇し、
取りくんでいくうちに、
揺れ動き、
なんども辞めて自分の居場所に帰りたいと思いつつ、
しだいに変わっていく姿が淡々と描かれていく。


アパラチア山脈は石炭の宝庫で、
巨大な資本が君臨している。
deep mining (従来の炭鉱) からstrip-mining (露天採鉱 )へと移行していくなかで、
住民たちの美しい故郷の山々は無残に破壊されていく。
炭鉱で働く者たちも長年の労働のなかで black lung disease (塵肺症）にかかり癌に侵されていく。
彼らは健康被害や環境破壊に抗して闘う術を知らない。
「もう１０年早くあなたに会っていたら」と嘆く言葉がSamantha の胸をうつ。
資本主義の負の構図のなかで、
時の権力、
FBIまでが加担して、
搾取される状況が赤裸々に描かれている。


Brady の無料法律相談所では所長をはじめ同僚の弁護士もスタッフもすべて女性で、
自身の問題をかかえつつ、
地元住民のために聡明に勇敢に働いていて、
Samantha はしだいに彼女たちから学んでいく。
一方では巨大な石炭会社から家族を奪われ、
その欺瞞をあばこうと危険を顧みない兄弟の戦いにも巻き込まれていく。

マンハッタンでは attorney (事務弁護士） として強大な組織の小さな歯車的な仕事しか与えられていなかった Samantha